第6話:お騒がせ娘、長岡。
男子の入浴時間となり、一番風呂に浸かろうと浴場に向かう溜池達。 殿方の浴場の入口の引き戸を開けると何と…。
えっと…まず、この場を一旦整理してみよう。
俺達は、男子の入浴時間に浴場に来た。 そして、引き戸を開けたら何故か今にも服を脱ぎそうな女子が居る。 更に疑問なのが…。
赤羽:
「おい、深く考えてる場合じゃないだろっ! (後ろ向きで)しっ、失礼しましたっ!」
(ガラガラ…ピシャン!)
籠原:
「何で、男の方の浴場に女子が居ったんやろ?」
籠原の言う通り、浴場の入口を見るとちゃんと白文字の達筆で『殿方』と書かれた紺色の暖簾が架けられている。 つまり、俺達が誤って女子風呂に入ってしまった訳じゃないのだ。
赤羽:
「じゃあ、あの女子が間違っているって事か? それに何処かで見た事があるんだよな、あの女子は…確か。」
(ガラガラ!)
???:
「ご、ご、ご、ごめんなさいっ! わ、私、間違えてしまいましたっ!」
(スタタタタタッ…)
3人:
「………。」
気を取り直して、俺達は入浴する事にした。
籠原:
「はぁ…、気持ちええなぁ。 それにしても、さっきの子は一体誰やったんやろ?」
赤羽:
「確か…そう、思い出した! 2組の長岡だ。 長岡 蓮だ。」
溜池:
「知らないな、そいつ。 他クラスの奴とあまり面識が無いから、全然解らん。」
籠原:
「何や、男みたいな名前やな。 けど、可愛らしい奴やったけど。」
赤羽:
「籠原…、あの子は正真正銘の女子だから当たり前だろ。 確かに、下の名前は男みたいだけどさ。」
溜池:
「赤羽、彼女の事知ってんのか?」
赤羽:
「あぁ。 中学の時、塾が同じだったんだ。 彼女とは別の中学だったが、塾内では同学年で1、2を争う程の秀才だったんだ。 可愛さも、さっきお前等が見ての通り抜群で人気だった。」
籠原:
「確かに、パッと見ただけでも可愛かったな。」
赤羽:
「でも、彼女には欠点があったんだ。」
籠原・溜池:
「欠点?」
赤羽:
「彼女、信じられない程のドジっ娘なんだ。」
溜池:
「まさか、さっきのも…。」
赤羽:
「多分、そうだと思う。 彼女は、無意識で男子浴場に入ったんだと思う。 浴場入口の暖簾を気付かずに。 何せ、中学の時から彼女のドジっ娘ぶりは塾内でも有名だったからな。何も変哲も無い平坦な道で何度も転倒するのは序の口。 夏期講習中、朝の9時開始をどう勘違いしたのか、何と夜の9時に来た事もあった。 塾で彼女と同じ中学の奴の話では、学校のテストで名前を書かずに提出してしまい、後に自己採点したら100点満点だった教科をフイにしてしまったらしい。 更に調理実習で、砂糖と塩を間違えるならまだしも、何故か塩と後に皿洗いで使う粉末洗剤を間違えて投入して料理をオジャンにしてしまった事もあったらしいよ。」
溜池:
「とっ、とんでもない奴なんだな…、あの子。」
籠原:
「…俺も、さすがに笑えへん。 わざとやっとるとしか思えへんやん。」
赤羽:
「更に極めつけなのが…。」
(ガラガラ)
???:
「ふふふーん、ふふふーん、ふふふ…、キャァァァァァッ!」
(ガラガラ…ピッシャン!)
溜池:
「学習能力、ゼロなんだな。」
籠原:
「ホンマ、ウケを狙っとるしか思えへん。 全く、メッチャ可愛いのに残念な子や。」
彼女がタオルを全身に巻いていて、且つ俺達3人が湯船に浸かっている状態だったから良かったものの、一つでも違っていたら大変な事態になっていた事だろう。
赤羽:
「さて、そろそろ出るか。」
籠原:
「あれ、他の奴等はどないしたんやろ? まだ入んないつもりやろか?」
溜池:
「俺達が単に、一番早く入浴しただけなんだろう。」
(ガラガラ)
豊橋:
「よし、入るか…おっ? お前らは、これで上がるのか?」
溜池:
「そうだよ。」
三河:
「…さっき、浴場の入口でウロウロしてる女子がいたんだけど…ブツブツ…。」
今池:
「何だよ、混浴じゃねぇのかよぉー。 あんだよぉー、つまんねぇ。」
(ガラガラ)
谷塚:
「おう、皆揃ってんじゃん。」
梅島:
「おほー、浴槽が広いじゃんよ! おい、タケ! 早く飛び込もうぜ!」
前橋:
「各務原、あっちでちゃんとお湯に浸かってるかなぁ。」
その後、次々と男子が浴場に入ってきた。 俺と赤羽は、入れ替わりで先に上がる事にした。
溜池:
「ふぅ…、良い湯だったな。」
赤羽:
「あぁ、全くだ。 ただ、一つだけ残念だったのは長岡の存在だな。」
溜池:
「はは…。」
(ガラガラ)
着替えを済ませ、脱衣所を後にした俺達は部屋に戻る前に一階の自販で飲み物を買う事にした。
溜池:
「さてと、何買おうかな…。」
赤羽:
「俺は、レモンスカッシュにするかな。」
???:
「あたしなら、風呂上がりはスポドリ(スポーツドリンク)かなぁ。」
溜池:
「スポドリねぇ、良いセンスだ…って、ん?」
赤羽:
「あっ、蔵前さん。」
???:
「ふふっ、ヤッホー。」
急に後ろから声を掛けてきたのは、1班の蔵前 亜栖花だった。