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下町ウォーターフロント  作者: りす君
5/13

第5話:一件落着…のはずが。

溜池達は、ホテルのロビーで籠原の帰りを待っていた。

あれから俺達は、出て行った籠原が無事に帰ってくるのを待っていた。 皆の表情からは、不安感とアイツを本当に心配している思いが汲み取れる。


(ガー)


俺と赤羽と鶯谷が部屋から出て、1階のロビーに設置してある来客用の椅子に座って待機していると前の自動ドアが開いた。


溜池:

「ん…? かっ、籠原っ!」


入ってきたのは、バツが悪そうな顔をしていた籠原だった。 俺達は、椅子から立ち上がり籠原に近寄った。


籠原:

「…よっ、元気だった?」

赤羽:

「元気だった?じゃねぇよっ!! 今まで、どこ行ってたんだよ!?」

鶯谷:

「…赤羽君、怒りすぎ。」

赤羽:

「えっ? …あっ、悪い…。」


鶯谷は、籠原が出て行った時の表情を思い出したのか、強く責めている赤羽をやんわりと制した。


溜池:

「籠原、取り敢えず俺達の部屋に戻ろう。 話は、そこで聞くから。」

籠原:

「…せやな、おおきに。」


俺達は、籠原を連れて辰巳と汐留がいる部屋へ向かった。


(コンコン)


汐留の声:

「あっ…、ど、どうぞ…。」

(ガチャ)

溜池:

「入るぞ。 籠原、戻ってきたから連れてきた。 取り敢えず、俺は担任に籠原が戻ってきた事を報告しなきゃならんから電話してくる。 籠原、早く中に入れよ。」

籠原:

「すまん…。」


籠原は、申し訳なさそうに部屋へゆっくりと入った。 俺は、一旦部屋から出て、担任へ連絡する為に1階へ戻った。


籠原:

「皆、ホンマにゴメンな!」

辰巳:

「…何よ、今更ノコノコ帰ってきて! 溜池君から、アンタが何を言っても絶対に怒るなと言われてても、これじゃあ怒りたくなるじゃん!」

赤羽:

「辰巳、ほら籠原も土下座してまで本気で謝ってんだから許してやろうよ。」

汐留:

「そっ、そうだよ、かりんちゃん。何よりも、籠原君が無事に帰ってきたんだから…。」

鶯谷:

「…それで、どうしてこうなったのか? 籠原君、説明してくれる?」

籠原:

「…あぁ。でも、溜やんが帰ってきてからでええかな。 アイツにもちゃんと聞いて欲しいから。」


俺は担任に電話で報告した後、急いで部屋に戻った。


(コンコン)

溜池:

「入るぞ。」

(ガチャ)

赤羽:

「溜池、今から籠原がちゃんと訳を話すようだ。」

溜池:

「解った。」


俺は(うなず)くと、皆の輪の中に入って座った。


溜池:

「んで、籠原。 本当にどうしたんだ、今日は?」

籠原:

「皆、ホンマにゴメンな。 今日の件は、突発的に起こした訳ちゃうんや。 前々から思っとった事が、急に込み上げてきて…ほんで、あのようになってしもうたんや。 ホンマゴメンな、堪忍な!」


籠原は、土下座したまま頭を下げた。


溜池:

「…いいよ、頭を上げな。 それと、もう土下座しなくていい。 充分、お前の誠心誠意の謝罪の言葉が俺達に伝わったから、なっ。」


皆、頷いてそれぞれ籠原に慰めの言葉を掛けた。


溜池:

「で、あの行動を起こした動機って何だ?」


籠原は小さく頷きながら、重い口を開いた。


籠原:

「実は…俺、未だに東京ってモンに馴れないんや。 関東と関西って、文化やら何から差異があるやろ。 俺、その事がしょうもなく気になってしもうてな。 正直、今も戸惑ってん。 オトンの勝手で、俺は嫌だった東京暮らしをしゃあなく承諾してしもうたけど、ホンマは故郷の大阪に帰りたいんや。ただ俺は、大阪におる友達らと一緒に地元の高校に行きたかったんや…。」


辛辣そうな表情で語る籠原の目から涙が溢れていた。 つまり籠原は、ホームシックならぬ、ホームタウンシックになっているらしい。


溜池:

「籠原。 あのさ…、まだ皆に話して無かったけど、実は俺も実家は東京じゃねぇんだ。」

籠原:

「…えっ?」

溜池:

「籠原の大阪よりはかなり近いけど、俺も神奈川の相模原から東京へ一人で来てるんだ。」

籠原:

「なっ、何故にそないな事をしてるんや? 地元の高校に行けば、仲良う友達とおれたっちゅうのに…。」

溜池:

「確かに地元の高校に通えば、俺は友達と一緒にいる事が出来たかもしれない。でも、もう俺達も高校生なんだ。いつまでも、一緒の友達といられる訳じゃない。 人それぞれの人生があるんだから。 事実、俺を含め中学の時のクラスメートの大半は卒業と同時に地元から別の地区の高校へ行ったよ。」

籠原:

「せやけど、俺の友達は(ほとん)ど皆あっちで生活してんねや。 地元を離れた溜やんなら、ソイツらに無性に会いたくなる気持ちが解らんか?」

溜池:

「その気持ちは解る。 けど、仕方ない事なんだよ。 いつまでも同じ環境に居続けられるとは限らない。 籠原にとって厳しい言い方になるけど、そんなに大阪に帰りたければ、今直ぐにでも転校して、あっちで一人暮らしをすればいい。俺なら、夏休みとか冬休みとか利用して地元の友達に会いに行くけど。」

汐留:

「ゆ、柚莉果も、実は元々東京出身じゃないよ。 生まれてから、お父さんの仕事上の関係で仙台や名古屋、広島とか色々な所に住んでたんだよ。 そして中学2年生の時に、ようやく東京に定住出来たの。 それまで、友達が一人も出来なかったけど、東京に来て沢山友達が出来たよ。」

赤羽:

「俺も、生まれは東京じゃなくて石川県の津幡(つばた)って所で、汐留と同じく父親の仕事でアメリカのシアトルに幼稚園から小学5年までいたんだ。 向こうじゃ、俺もお前と同じ様に孤独だったよ。」

辰巳:

「なっ、何よ…。 皆、出身地が違うなんて。 私なんか、生まれも育ちも東京よ!」

鶯谷:

「私は…、京都の烏丸(からすま)四条出身。」

溜池の心の中の声:

「てか、段々話の論点がズレてないか?」

籠原:

「せや…、皆違う地域から来てても東京の生活にちゃんと適応しておるもんなぁ。 俺も、そうしないけんのかなぁ…。」

溜池の心の声:

「しかも、籠原は勝手に納得しちまってるし。」

辰巳:

「って、て言うか、今更あっちへ帰るだなんて意味ないと思うし! こっちに居た方が…。 べっ、別にアンタが居ないからって、(さび)しい訳じゃないんだからねっ!」

辰巳以外の全員の心の声:

「何故にツンデレ?」

籠原:

「皆、ホンマ今日は俺が迷惑掛けてしもうた。 堪忍な、この通りや。」

赤羽:

「良いよ、もう土下座はよせ。 逆にこっちが気を使っちまうよ。」

汐留:

「そっ、そうだよ、顔上げてよ。 皆、籠原君の事を許してるんだよ。」

鶯谷:

「ツンデレさんに免じて許す。」

溜池:

「プッ!」

辰巳:

「わっ、笑うなぁ!」

赤羽:

「アハハッ、鶯谷は面白いなぁ。」

籠原:

「プッ、クククッ、アハハハハッ! …なんや解らへんけど、皆で笑える事ってホンマ幸せな事やな。」

溜池:

「そうだな、ククッ!」

辰巳:

「もう…、皆して私の事を笑って! フンッ、知らないっ!」


そう言って、顔を赤らめた辰巳はふて寝した。

やがて、他のクラスやクラスメート、先生達が次々とホテルへ到着し、籠原と班長である俺は担任と学年主任の所へ謝罪しに行った。 事情を説明すると担任は笑顔で許し、学年主任は虫を食ったような顔で合点がいかなかったようだが、籠原に箱根旅行終了後3日間の自宅謹慎が言い渡された。


[夕食後]


籠原:

「これから風呂の時間やけど、一緒に行かへん?」

溜池・赤羽:

「おう、行こうぜ。」


俺達は、しおりに記されたスケジュール通りの時間に入浴する事にした。


籠原:

「実はここって、混浴なんや!」

溜池・赤羽:

「マジッ!? ヤリィ!」


(バシッ!)


溜池・赤羽:

「って、言うと思ったか! 冷静に考えれば、嘘に決まってるだろ!」

籠原:

「二人して、タオルで俺を叩かんといて!」


[浴場入口]


籠原:

「さぁ、着いたでぇ。 今日1日の疲れを取るでぇ。」


(バシッ!)


溜池・赤羽:

「疲れさせたのは、お前だろ!」

籠原:

「(涙目で)だから二人して、俺を叩かんといて…。」


(ガラガラ)


溜池:

「ったく、誰の所為で疲れたんだよ…。 ふざけんじゃねぇ…って?」

???:

「えっ?」

溜池:

「………。」

???:

「………。」

赤羽:

「おい、どうした溜池。 何か問題でも…、って?」

籠原:

「(泣き声で)なんや、二人共動かんなんて。 どないしたんや…っと?」


………。


3人:

「なぁぁぁぁぁっ!」

???:

「キャァァァァァッ!」


なんという事だ。 まさか、男の浴場に女子がいるなんて…。 本当、家に帰りたい。

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