第3話:関ヶ原が分けるモノ。
いきなり2人抜けてしまった、溜池達4班。 勿論、全員途方にくれていた…。
旅の序盤から、いきなり班員が2人も居なくなった俺達、4班。
どこへ行こうかと、残された4人で箱根のガイドブックを見ながら相談をしていた。
と言うのも、事前に学校で旅行プランを各班内で計画する時間を設けられたが辰巳、汐留、赤羽が次々と風邪をひいて休んでしまい、決めるも何も出来ない状態で他の班らが次々と出来たプランを担任へ提出していく傍ら、俺達は只々その時間を無駄に過ごしてしまった為、全くプランが出来上がっていなかったのだ。 つまり、ぶっつけ本番の状態でここに居る事に…。
溜池:
「で、これからどうする?」
赤羽:
「いきなり人数が減ったとか…、ある意味すげぇな。」
汐留:
「かりんちゃん…だっ、大丈夫かなぁ…。 柚莉果、心配だよぉぅ…。」
鶯谷:
「見事なまでに話をスルーされてる溜池君…、面白い。」
今更ながら、班長にならなきゃ良かったと思った。 だが、時、既に遅し。 見事なまでに、結束力が皆無の俺達4班。
???:
「おい、溜池。 どうしたんだよ?」
溜池:
「ん? あぁ…何だ、出来損ないリーゼントか。」
???:
「なっ?! 今お前、バカにしたな! 俺の…、俺の…。」
溜池:
「俺の…、何だよ?」
???:
「リーゼントをっ!!」
溜池:
「…はぁ? 髪型かよっ!!」
今、俺に話し掛けてきた奴…それが出来損ないリーゼント野郎、亀戸 広司である。
15歳。 182cm。 3月生まれ(本人談)。 髪型が父親ゆずりのリーゼントで、体もがっしりしている。 なのに、アホでツッパリ感ゼロのしょうもない奴。 彼の実家が浅草で花屋を経営していて、彼自身も道端に咲いているタンポポの花などを見つけると、幸せそうな顔をしながら愛おしげに観察する程の花好きである。 彼の事を全く知らない人がその姿を見たら怖がり、気持ち悪がるだろうが、彼の本性を知ればどうって事は無い奴なのだ。
亀戸:
「お前ら、さては籠原と辰巳がいきなり居なくなって困惑してんだな? ふふっ…、聞いて喜べ。 この俺が、お前らの班に入ってやるぞ…って既に居ねぇっ!!」
リーゼントバカを無視し、俺達は箱根湯本駅から箱根登山鉄道に乗り込み、彫刻の森駅へ向かった。
赤羽:
「箱根彫刻の森美術館って、色々な彫刻作品が展示されてるらしいよ。」
溜池:
「あぁ、確か前テレビで『芸術は爆発だ。』っていう言葉を遺した某美術家の展示会が開かれてるのを観たぜ。」
汐留:
「ゆ…柚莉果、美術作品ってイマイチ興味持てないけど、そっ…そんなに良い作品なら観てみたいなぁ…。」
鶯谷:
「和製ピ○ソの作品展…。」
しかし、既に時間は昼なので昼食を途中で採る事に。 ここで鶯谷が昔、箱根に訪れた際に食した、宮ノ下駅近くのパン屋に立ち寄り、ビーフシチューが入ったパイを食べる事にした。
溜池:
「はぁ…美味かった。 いや、驚きだな。 まさか、鶯谷がこんな店を知っているとは不覚にも解らなかったよ。」
鶯谷:
「一応…、料亭の娘だから。」
汐留:
「ちゃ、ちゃんと籠原君とかりんちゃんの分も買えたよ。」
赤羽:
「まず、それを持っていってあげよう。」
俺達は宮ノ下駅から小涌谷駅に行き、そこからバスに乗り込み、俺達の宿泊先であるホテルへ向かった。
[ホテル:受付]
溜池:
「あの…、今夜こちらで泊まる東京テレポート学院の学生なんですが、先に到着した生徒2人の部屋を教えて貰えないでしょうか?」
ホテルマン:
「はい、少々お待ち下さい。」
その後、ホテルマンに部屋番号を教えて貰い、俺達は2人がいる部屋へ向かった。
(6階:607号室)
籠原の心の声:
「はぁ…つまらんなぁ。 なんで俺が、こんな女の世話せなあかんねんな。 ったく、おもろないわ…。」
辰巳:
「…うぅ、うぅーん。」
籠原:
「やっと目が覚めたんかい。 ったく…、しゃあない女やな。」
辰巳:
「…か、籠原?」
籠原:
「ようやく気がついたかと思えば何やねん、その反応は? おもろないわ。」
辰巳:
「なっ…、なによっ! 元はと言えば、アンタの所為でしょっ!」
籠原:
「生意気な女にお仕置きしただけや! てか、ここまでお前をしょって運んできたのは俺やで? 感謝しいや。」
辰巳:
「っ!? …ホント、アンタって最低よ!」
籠原:
「なんやと! おおきにの一言も言えんのか! ホンマ、胸糞悪いやっちゃ!」
辰巳:
「アンタね、ごめんなさいってまず謝るのが普通でしょ! 何が感謝よ! 被害者は、私なんだからねっ!」
籠原:
「なんやと!」
辰巳:
「謝ってよ!」
籠原:
「嫌や。」
辰巳:
「…出てって。」
籠原:
「はぁ?」
辰巳:
「こっから出てってよっ!!」
籠原:
「…あぁ、出ていくわ! もう知らんわ! あぁ、胸糞悪っ! ずっとそこでくたばっとけ、クソアマ!」
(バタンッ)
辰巳の心の声:
「…最低よ、あんな奴。」
[6階:廊下]
籠原の心の声:
「あぁ、ムカつくわ! なんで、俺があんな事言われなきゃあかんねん。 今更やけどホンマは俺、関東に来んのは嫌やったんや。 関東人はノリの悪い奴ばっかで、クソおもろない。 ホンマ、仲間が居る門真に帰りたいわ…。」
???:
「おぉ、籠原。 なんだ、ここに居たのか。」
籠原:
「ん? たっ、溜やん!?」
[6階:自販機前]
俺達は、廊下でため息をついていた籠原と出会い、自販機でジュースを買いながら話す事にした。
汐留:
「えぇっ、かりんちゃんとまた口喧嘩したの?!」
籠原:
「せやねん。 元は、アイツが悪いねんって。 アイツをここまでおぶって来たのは俺やっちゅうのに…アイツ、ありがとうの一言も言わへん。 最悪や。 起きたら、起きたで『ん…か、籠原?』なんてのん気な声で喋りおるからムッカーってきて、俺はアイツに罵声を浴びせたんや。 俺は、何も悪くないっ!」
溜池:
「籠原、声が大きいって。」
籠原:
「あっ…すまん、つい熱くなって大声になってしもうた。 …とにかく、もうアイツの看病なんてしたない。 あんな生意気なアマ、道頓堀に沈めたいぐらいや。」
溜池:
「籠原、落ち着けって。すまんが、俺は九分九厘、お前が悪いと思う。 大体、辰巳が昏倒した原因はお前が放った臭い屁だぞ。 いくら生意気だからって、やり過ぎだと思う。」
籠原:
「…た、溜やん?! アイツの肩を持つつもりなんか?! なぁ、嘘やろ?」
赤羽:
「…なぁ、帰ってやれよ。 辰巳の所へ。」
汐留:
「そ…そうだよぅ、かりんちゃんを看ていてあげて。 多分まだ、あまり良く無さそうだから。」
鶯谷:
「それが今、籠原君の使命…。」
溜池:
「ほら、謝りに言ってきな。 これを持ってさ。」
俺は、買ってきたビーフシチューパイが入った袋を籠原に渡した。
籠原:
「(小声で)…最悪や。 誰も、俺の事なんか気にしないんやな。」
籠原は、手に持っていたシチューパイが入った袋を床に叩きつけた。
籠原:
「ふざけんなっ!」
溜池:
「なっ!?」
籠原:
「もうあかん! 東京なんて嫌や! 関東人なんて嫌いや! 何もかんも、おもろないっ! 皆、嫌いやっ!」
溜池:
「か、籠原っ!」
籠原は、俯きながらその場から走って居なくなった。 俺達は追いかけたが、途中で彼を見失ってしまった。
溜池:
「籠原…、アイツ。」
俺達は、ホテルの人に頼んで電話を借りて担任に連絡した。 担任は、すぐホテルに向かうとだけ言い、通話は途切れた。 俺達は、その足で辰巳が休んでいる部屋に行き、籠原が居なくなった事を伝えた。 辰巳は、一瞬驚いた表情を見せたが、すぐ冷静な表情に戻り『あんなサイテーな奴なんか知らない。』と言い放ち、布団に潜ってしまった。
あーあ、本当に俺ってとことんツキに見放されてんのかな…。