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下町ウォーターフロント  作者: りす君
2/13

第2話:いざ、箱根へ?

前回の回想:神奈川県から東京の下町へ越してきた新高1生、溜池(ためいけ) 駿弥(しゅんや)

彼の通う高校、東京テレポート学院高校までの道のりはとてもハードであった…。

今回は、溜池達が親睦目的で行われる箱根オリエンテーション(仮称)初日の話。

(箱根オリエンテーション・出発当日)


溜池:

「おっせぇなぁ、籠原のヤツ。 もうすぐ、出発時刻なのによ。」


今日から箱根オリエンテーションだが、初日から奴は遅刻である。 新宿駅の小田急口に朝8時半集合なのに、集合時刻を過ぎても一向に現れないのだ。


辰巳:

「てか、いっその事置いてっちゃわない? 最悪、アイツが居なくてもまぁどうにかなるっしょ。ねっ?」


そう言葉では言いつつ、そわそわしながら時折携帯を取り出したり、仕舞ったりしている辰巳。


汐留:

「か…かりんちゃん? 明らかに落ち着きが無いし、さっきから携帯を何回も取り出しては見てるけど?」

辰巳:

「えっ!? あっ! これは…そう! メールよ、メール! 今朝、友達から来てたのを返信しようかなって思ってっ!」

鶯谷:

「…籠原君からのメール。」

辰巳:

「ひゃっ!? ち、違うわよ! 全然違うの!! べっ、別にアイツの事なんか、しっ…心配してないし!」


そう言って、辰巳は顔を赤くして背けた。


汐留:

「だっ…大丈夫? かりんちゃん。」

鶯谷:

「やはり、籠原君。」

辰巳:

「だから違うってばぁ! (小声で)別に、アイツが居ないと寂しいとかじゃないし…。」


そう呟いている辰巳を横目に、鶯谷は一人妙に勝ち誇ったような表情。正直、怖い。


溜池の心の声:

「とりま、アイツに電話してみっか。 でも、ここで電話するとなると万が一担任に見つかったら厄介だしなぁ。」


事前に担任から、携帯を持ってくるのは禁止(とは言っても、恐らく皆密かに持ってきているだろう。)と言われており、もし見つかったら没収で旅行中ずっと担任預かり、だそうだ。 それだけは何とか避けたいので、普段使わない頭をフル回転させて何か良い案を探す。 すると、半ば強引な方法ではあるが一つだけ思いついた。


溜池:

「先生! 中野先生!」


俺は、担任の中野へ声を出した。 ちなみに、俺達の担任である中野(なかの) 慶子(けいこ)は、ウチの高校に赴任してきたばかりの若干25歳の若手新米女性教師である。

担当教科は英語で、若いという事で俺達のクラスや他クラスの女子からは【慶ちゃん先生】という愛称を付けられて、気軽にそう呼ばれている。 本人が相当おおらかな性格なのか実際の所、生徒に()められている事におおよそ気づいてはいない様子。いつもニコニコと微笑(ほほえ)んでいる。 …あれ? なんか、俺の身近にこんな人既にいたような。


中野:

「何かな、溜池君? もう直ぐ出発だよ。」

溜池:

「そうなんですけど、実は赤羽が朝から体調悪いらしくて、トイレに行きたいってひっきりなしに言うんで行かせてやっても良いですか?」

赤羽:

「えぇっ?! お、俺は全ぜ…。」

(ガバッ!)

赤羽:

「うわっ! うががっ…!」


俺は、とっさに赤羽の口を(ふさ)ぎ、担任から背を向け、しゃがみこんで小声で話し込んだ。


溜池:

「(小声で)頼む、口裏を合わせてくれ!」

赤羽:

「(小声で)何だよ、びっくりしたな…。 口裏って?」


俺は、籠原に電話を掛けたいという旨、その為の辻褄(つじつま)あわせを頼むと赤羽に簡素に伝えた。


赤羽:

「(小声で)うーん…、解った。 とりあえず、やってみるよ。」

溜池:

「(小声で)すまないな、赤羽。 頼むぞ。」


話し終えた後、俺達は立ち上がった。 担任は、不思議そうな顔をしている。


中野:

「ん、どうしたのかな?」

赤羽:

「うぅ…、すいません先生! トイレに行っても良いですか?」

中野:

「構わないけど、大丈夫?」

赤羽:

「…え、えぇ、何とか間に合いそうです…。」

溜池:

「赤羽、大丈夫か? あ、俺がついて行くんで平気ですよ。」

中野:

「うーん…、解りました。 それじゃあ、私の方から学年主任の佐貫(さぬき)先生に急用で遅延をお願いしますと伝えておきます。 頼みましたよ、溜池君。」

溜池:

「すいません、行ってきます。」


俺達は何とか誤魔化す事に成功し、急いでトイレへ向かった。


溜池:

「さて、掛けるかな。」


俺は、個室に入って携帯を取り出して籠原に電話を掛けた。


(ツー…ツー…)


籠原:

「あっ、もしもし籠原ですけど。」


籠原に、電話が繋がった。


溜池:

「おいっ、籠原! 今、どこに居んだよ?」

籠原:

「おぉ、溜ちゃんやんか! 今な、箱根湯本っていう駅に居んねん。」

溜池:

「…はぁ?! おい、何で今そこに居んだよ!? そこは、今から俺達が新宿から向かう場所だぞ!」

籠原:

「あれ、現地集合じゃ無いんか? 俺は、てっきり現地集合やと思うて、昨日の夜にこっちに来たんやけど…。 何や、端っから違うんかい!」

溜池の心の声:

「アハハ…、コイツ本当にアホだな。」

溜池:

「とにかく、そこから一歩も動くなよっ!! 解ったな!」

籠原:

「お、おう…、解った。 そんなにキレんでもええやん。」

溜池:

「絶対だぞ! また後でな!」


俺は電話を切り、携帯を仕舞うと個室のドアを開けて出た。


赤羽:

「ど、どうした、溜池? 外にまでお前の怒号が聞こえたぞ。」

溜池:

「本当にふざけてるよ、アイツ。 今、何処にいるって聞いたら何て答えたと思う? 箱根湯本駅だと! 聞いて呆れた。」

赤羽:

「えぇっ?! 箱根湯本って、今から俺達が向かう所じゃないか! 一体何で、籠原はそこに?」

溜池:

本人曰()わく、現地集合だと勘違いしたんだと。 ホントバカだよ、アイツ。」

赤羽:

「はは…、籠原らしいな。」


俺達は、トイレから出て担任の元へ向かった。 そして担任に、携帯を持っていた事を白状し、籠原が今現在、箱根湯本駅にいる事。 そして、皆が到着するまでそこから一歩も動くなと忠告したと伝えた。 担任は、素頓狂(すっとんきょう)な声を上げ、そして落ち着きを取り戻した後、その事を学年主任へ伝えに行った。


辰巳:

「本当にアイツ、バッカじゃないのっ! 何で、現地集合だと勘違いすんのよ! 挙げ句の果てに、こっちの出発時間を遅らせる羽目になって、結果皆までに迷惑掛けちゃってさっ!」

汐留:

「かりんちゃん…、おっ、落ち着いて…ねっ?」

辰巳:

「はぁ…もう、あのバカの所為で最初っから最悪よっ! (小声)でも、見つかって良かった…。」

汐留:

「か、かりんちゃん…? 今、何か言った?」

辰巳:

「へ? いや、単なる独り言よ、ヒトリゴト。 べっ、別に籠原の事を考えてた訳じゃないよっ、はは…。」

汐留:

「か…篭原君の事、気になるの?」

辰巳:

「き、気になる訳ないじゃないっ! あんな、トラブルメーカーなんて…。」

鶯谷:

「辰巳は、篭原君を心配している…と、メモメモ。」

辰巳:

「ちょっ、ちょっとぉ!」


相変わらず、女子達は騒がしかった。 話の内容は、聞こえなかったけど。


中野:

「それじゃ、ホームへ向かうんでちゃんとついてきて下さいね。」

一同:

「はぁーい!」


俺達は、新宿駅から小田急線特急[箱根ロマンスカー]に乗り込み、箱根の玄関口である箱根湯本駅へ向かった。 車中、皆お喋りに興じたり、トランプやあるカードを出された奴が2枚や4枚、それ以上をひかされたり、あがる前に2文字の言葉を言わなければならない4色のカードを使って遊ぶ某カードなどで遊んでいた。 ちなみに俺は、昨夜の諸事情により寝不足だったので端っから寝ていた。


???:

「…い、お…、きろ! …いけっ!」


誰かが、俺に声を掛けてきた。


溜池:

「う、うぅ…何だ?」


俺を揺すって起こそうとしていたのは、赤羽だった。


赤羽:

「もう直ぐ着くから、そろそろ起きねぇとヤバいぞ。」

溜池:

「あぁ、解った。 わざわざ、起こして貰ってすまなかったな。」

せっかく今、夢の中で巨乳グラビアアイドルとイチャイチャしようとしていた事は赤羽に黙っておき、俺は欠伸と共に伸びをして起き上がった。


車内アナウンス:

「御乗車ありがとうございました。 間もなく終点、箱根湯本に到着致します。 お忘れ物無いよう、御注意下さい。 …」


俺は、荷支度を整えて降車の準備をした。 担任が点呼をとり、到着まで席から立ち上がらない事を忠告された。

ふと窓の外の景色を観ると、さっきまで高層ビル群に居たとは思えない程の自然豊かな山々の風景が目に映った。 心配する事は、[携帯の電波が届くか?]か[食事は、俺の好きな食い物は出るか?]の二つだけだ。


[箱根湯本駅]


???:

「うっはー、温泉の匂いがプンプンだぜ!」

???:

「アホ! 駅でそんな匂いはしねぇよ。」

???:

「アハハッ、梅島君面白いっ!」

???:

「はぁ…アンタ、笑いの沸点が低いよ。」

???:

「わぁー、箱根だぁ。 楽しみだねぇ、萱ちゃん? ここでも、ラブラブしようね!」

???

「そうだね、各務原。」


前に並んでいる人達が3班である。

最初にボケた奴が、いつもヘラヘラしている、梅島(うめじま) 和士(かずし)

それにツッコミを入れたのは、梅島と中学の頃から仲が良い谷塚(やつか) 竹紘(たけひろ)

梅島のボケに何故かツボった女子が、浜松(はままつ) 真彩(まあや)

浜松の事を冷静視していたのが、山科(やましな) 紗月(さつき)。 そして、周りの目も気にせずイチャイチャしようとしてたカップルは、各務原(かがみはら) 柚葉(ゆずは)前橋(まえばし) (けん)である。 二人は、幼なじみらしくいつも二人一緒にいてクラス、いや学年公認のカップルとして知られている。


???:

「マジかったるいな…、早く旅館に行きてぇよ。」

???:

「箱根の温泉効能に期待…ブツブツ…。」

???:

「綺麗な姉ちゃんいねぇかな? 周り見てもババァばっかだしよー。」

???:

「ねぇ、大涌谷って臭い所なんだって。 服に臭い付いたら最悪じゃん。」

???:

「そうかも。 あんまり行きたくないなぁ。」

???:

「でも、食べると7年寿命が伸びると言われている黒たまごは食べてみたいなぁ。」


俺達4班の後ろにいるのは5班である。 そこの班長である、面倒くさがり屋で授業中は大抵机に突っ伏して寝ている男、豊橋(とよはし) 港泰(こうだい)

豊橋の後ろでブツブツ言ってる奴が、クラス1目立たない根暗男、三河(みかわ) 安城(やすき)

名ばかりの研修旅行ではあるが、その最中にも関わらず綺麗な年上の女性を探しているのは、自称チャラ男の今池(いまいけ) 遊児(ゆうじ)

その後ろで喋っていた仲良し女子3人組が、知多(ちた) 智子(ともこ)一宮(いちのみや) 里未(さとみ)半田(はんだ) 由夏(ゆか)である。

全体で5班あり、残りの人間は追々説明するとしよう。 ちなみに3班の班長は谷塚、4班は不覚にも俺である。


辰巳:

「あっ!? あれ、籠原じゃない?」


辰巳が指差したその先に、改札の前でふてくされている籠原が居た。


溜池:

「おーい、籠原っ!」


俺が呼ぶと、籠原は反応し、周りを見渡して俺達を見つけると文句を言いながら駆け寄ってきた。


籠原:

「ったく、昨日の昼までにメールしてくりゃさ俺は間違っておらんかったやんか!」

溜池:

「お前…まさかこの小旅行のしおり持ってないのか?」

籠原:

「しおり? そんなもん、あったっけ?」

溜池:

「あのな…。 先週配られただろ、帰りのホームルーム中に。 あれに、集合時刻と集合場所が書かれてんだよ! この小旅行のスケジュールとかさ!」

籠原:

「だーもう、うるさいやっちゃなぁ! そんなもん、とっくにゴミ箱にシュートしてもうてるがな。 旅行って言ったら、現地集合、現地解散が当たり前やろ? なぁ?」


コイツの言っている事は多分、テレビの旅番組から得た情報であろう。 俺達の小旅行と芸能人達が行くロケの旅行じゃ、何から何まで全てが違う事ぐらい解っていて欲しかった。


辰巳:

「アンタ、一体何人の人達に迷惑を掛けてんのよっ! 文句より謝罪が先よっ! てか、言い訳するなんて最っ低!!」

籠原:

「んやと?! お前に言われる筋合いは、微塵も無いわっ! てかお前、この班に居ったか? てっきり、違う班やなと思うたわ。」

辰巳:

「っ!? あ、アンタ…、本当にサイテーっ!! ゲス男っ!」

籠原:

「ヘンッ、ゲス男で結構、コッケコッコー!」


(ブオッ!!)


そう言うと籠原は、本家ニワトリにも劣らぬ鳴き声を披露した後、一発で周囲の奴等(やつら)を悶絶させる臭さを持つ籠原バズーカ(赤羽が命名。 単なる強烈な屁)を放ち、放屁した本人がちゃっかり鼻栓をして笑っていた。

ちなみに、俺を含めた4人は屁を放たれた瞬間逃げられたが、辰巳だけ逃げ遅れてしまった。 よって辰巳は、意識の限界に達し、その場で卒倒。 先に旅館送りになった。

そして籠原は罰として、今日の班別自由行動から外れ、辰巳の付き添い人として先に旅館に向けて出発していった。


端っから2人抜け、残った俺達4人はこれからどうしたら良いのか…。 誰か教えてくんなまし。 うぅ…。

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