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下町ウォーターフロント  作者: りす君
11/13

第11話:実家へ帰ろう。

1学期の終業式を無事に終え、それぞれの高校生活初の夏休みが始まろうとしていた。

7月も中旬に入り、高校生活初の期末試験を終えた頃、テレビにて梅雨明け宣言がされ、いよいよ本格的な夏が始まろうとしていた。


[1年4組 教室]


籠原:

「いやー、いよいよ明日っから夏休みやな。 目一杯、楽しむで!」

溜池:

「そういや籠原、成績表の方はどうだったんだよ?」

籠原:

「た、溜やん…、その話は聞かんといてーな。」

赤羽:

「その様子じゃ、相当悪かったんだな。 ところで、溜池は夏休みをどう過ごす予定?」

溜池:

「ん? 取り敢えず、俺は実家へ帰る予定。 そんで、夏休みの後半になったらこっちへ戻ってくるる感じ。」

籠原:

「溜やんの実家って、神奈川やっけ?」

溜池:

「あぁ、そうだよ。 籠原は、大阪へ帰るのか?」

籠原:

「もちろん! 友達に久しぶりに会うて、めっちゃ遊ぶつもりや!」

???:

「当然、地元に残してきた彼女にも会いに行くんでしょ?」

籠原:

「そうやね…って、うわっ!? ビックリさせんなや、蔵前! 何で、お前がその事を知ってんねん!?」

蔵前:

「アハッ、図星だぁ! 何故、知ってるかって? それはヒ・ミ・ツ、だよ。」


俺達3人に話し掛けてきたのは、蔵前だった。


溜池:

「蔵前は、夏休みをどう過ごす予定なんだ?」

蔵前:

「私は、野球部のマネージャーとして休養日を除いてほぼ毎日、学校のグラウンド内外で仕事してると思うよ。」

籠原:

「今年の夏は、都大会ベスト8だったらしいやんか。 ホンマ凄いよなぁ。」

蔵前:

「本当。 野球部創設以来の最高成績だったんだから。 日頃の努力が報われたんだよ、きっと。」

赤羽:

「成程な。さてと、俺はそろそろ帰るよ。 じゃあ、お先に。」

溜池:

「おう。 あっ、8月の後半にあのアニメの映画、一緒に観に行こうぜ。」

赤羽:

「おう、解った。 公開日が迫ったら連絡してくれ。」

溜池:

「了解。 それじゃ、良い夏休みを!」

赤羽:

「そっちもなっ!」


こうして赤羽と別れた俺は、籠原と共に歩いて豊洲駅まで下校する事にした。


籠原:

「こっちへ戻ってくる時は、お土産を仰山買うてきたるから覚悟しぃや! ニシシッ!」

溜池:

「えぇ…。要らない、遠慮する。」

籠原:

「なんや、やけに冷たいやんか。 人の好意は、有り難く受けとるのがマナーやで?」

溜池:

「はぁ…。 あのな、はっきり言うけど迷惑なんだよ!」

籠原:

「(涙目で)真顔でそんな事、言わんといてぇーな。 酷いやんか、溜やーん。」

溜池:

「(表情を柔和にしながら)ハハッ、冗談だよ。 真に受けんな、籠原。」


こうして、籠原をおちょくりながら歩き、豊洲駅の入り口で彼と別れた後、列車に乗って真っ直ぐ自宅へと帰ったのだった。


[東京都 葛飾区 四ツ木 溜池自宅]


(ガチャガチャ…ガチャン)


溜池:

「ふぅ…。」


約30分強で自宅に到着。 早速、俺は帰省準備に取り掛かった。


溜池:

「よっこらせっと…。」


約4ヶ月振りになる地元への帰省。 久しぶりに母が作る料理を食べられるのは、結構楽しみでもある。 あんな人でも、家事は難なくこなしているのだから普通に凄いと思う。


溜池の心の声:

「さてと、荷造りはほぼ出来たな。 あと一応、帰る前に電話しとかねぇと。」


実家に電話するのも、幾分久しぶりだ。 何せ普段、互いの連絡は大体携帯のメールで済ませているのだ。


(プルルルル…)


3コール目で電話に出たのは、妹の涼奈だった。


溜池の妹/涼奈:

『もしもし、溜池ですが?』

溜池:

「おっ、涼奈か? 俺だ、駿弥。 お袋は居るか?」

涼奈:

『…少々お待ち下さいませ。』


(保留音)


溜池の心の声:

「一体いつから俺に対してあんな他人行儀をし始めたんだろうか、アイツは。」


(保留音終了)


溜池の母/恵:

『はぁい、もしもしぃ。 駿ちゃん?』

溜池:

「あっ、もしもしお袋? あのさ、明日そっちへ帰るから。 今日、終業式だったから。 そういや兄貴は、もうそっちに帰ってる?」

恵:

『あらぁ、そうなの。 車とかに気をつけて帰ってきてね。 秋ちゃんは、お仕事で8月に入らないとお休みを貰えないんだってぇ。』

溜池:

「そっか。 じゃあ、また明日連絡するから。 それじゃ。」

恵:

『うん。 お母さん、駿ちゃんの大好きなカレーを作って待ってるからねぇ。 それじゃあねぇ。』


(通話終了)


相変わらず、甘ったるい声で電話越しでも認識出来るほんわかな雰囲気を醸し出す母親である。 多分、母の事を知らない人は初見で3人の子供を産んだとは思えないだろう。


(ブーン…ブーン…)


携帯が震えたので確認すると、メールが入っていた。


溜池:

「何々…、『帰りにお豆腐を4丁、買ってきてねぇ。 お母さんより。』 か。おいおい。」


どこまでもマイペースな母であった。


[翌日]


溜池:

「部屋の戸締まり…良し、ガスの元栓…良し。 コンセントも、ちゃんと抜いてある。 忘れ物も無いよな…、うん。 そんじゃ、行くか。」


荷物を背負い、部屋を出て、鍵を締めた。 マンションを出発し、四ツ木駅へと向かった。

まず、四ツ木駅から都営浅草線直通列車に乗り、浅草橋駅へ。浅草橋駅でJR総武緩行線に乗り換えて、新宿駅へ。 新宿駅から、京王線・京王相模原線で終点の橋本駅へ向かった。


[JR・京王/橋本駅]


溜池の心の声:

「やっと着いた…。 やっぱ遠いぞ、相模原は。」


神奈川県相模原市。 俺の生まれ故郷である。

ここ、橋本駅は相模原市において交通の中心駅であり、市内では栄えている方である。将来、リニアモーターカーの停車駅がここに出来るかもという話を兄貴に教わった。 俺としちゃ、本当どうでも良い話だけど。

神奈川県と言っても、かなり外れの方にある相模原市。 ここに住んでいても買い物する時とかは、県境を超えて八王子や町田の大型百貨店を利用するし、この橋本駅から数キロ離れればもう田舎風景であり、出身者としても単なる交通の要所みたいな乏しいイメージしか無い。

同じ神奈川県内でも、有名な横浜市や川崎市、鎌倉市等に比べ、我が街は近郊の町村と合併して広大になった面積以外であまり特徴が無い。 強いて挙げるなら、米軍基地が存在するくらいか。


溜池の心の声:

「さて、頼まれた買い物を手早く済ませて、さっさと帰るぞ。」


家路の途中にあるスーパーで買い物を済ませ、実家に到着したのは17時ちょっと前だった。


(呼び鈴)


???:

『はーい?』


橋本駅から徒歩15分程度の閑静な住宅街の中にある、ごく普通の2階立ての一軒家が我が実家。 表札には、溜池家全員の名前が刻まれている。


溜池:

「お袋、俺だよ。 駿弥。 開けてもらえる?」


ドアモニターに向けて、呼び掛けた。


???:

『はぁい、ちょっと待っててねぇん。』


相変わらず、生の声も甘ったるい感じな母親。


(ガチャガチャ…ガチャン)


溜池母/恵:

「駿ちゃーん!」

溜池:

「うわっ、ちょっ、お袋?! いきなり抱きついてくるなよっ!」

溜池母:

「だってぇ…お母さん、嬉しいんだもん。 久しぶりに駿ちゃんの顔を見れたんだしぃ。」

溜池:

「はいはい、解ったから離せ。」


家に入り、荷物を降ろして居間に入った。


溜池:

「そういや、親父は?」

溜池母:

「今日は、昔の親友達と飲んでくるから遅くなるってぇ。 だからぁ、今日の夕御飯はお母さんと駿ちゃんと涼ちゃんの3人なんだよぉ。」

溜池:

「そう、解った。 じゃあ、また後で。」

溜池母:

「あれ? 駿ちゃん、ご飯は?」

溜池:

「昼喰うのが遅かったから、まだ腹減ってないんだ。 俺は後で自分で(よそ)うから、もし腹減ってんなら先に食べていてくれ。」

溜池母:

「解ったわ。 じゃあ、お母さんと涼ちゃんで先に戴いちゃうね。」

溜池:

「ごめん、そうしてもらえると助かる。」


話を終わらせると荷物を持って二階に上がり、俺の部屋に入った。


(ガチャ)


俺が実家から出て行ってた以来、モノの配置場所は何も変わっていなかった。 勉強机に小型テレビ、ベッド、本棚、エアコン等がある。


溜池の心の声:

「久しぶりに帰ってくると、なんだかんだ言って落ち着くよな。」


感慨更けながらうーん、と少し伸びをした。 ふと、机の方に目をやると写真立てがあった。 手を伸ばして、写真立てを取った。


溜池:

「(小声で)…あーあ。全く何やってんだよ、俺。」


一枚の写真を見つめながら、無意識にポツリと呟いていた。 写真には、笑顔でピースサインする男女3人が写し出されていた。 その中の1人は勿論俺ではあるが…。


溜池の心の声:

「何故、飾ったまま出て行ってしまったんだろう。」


兄妹や両親と撮った写真では無い。 中学まで一緒だった、幼なじみ3人で撮った写真。 この写真、第三者から見れば恐らく仲の良い3人が写っているように見えるだろう。 けど、それは大きな間違いだ。 この写真に写し出されている本当の意味…。


溜池:

「チッ…。」


過去の記憶に悪態をつきながら写真立てを伏せると、ベッドに寝転んだ。 疲れが溜まっていたのか、やがてそのままゆっくりと睡魔に誘われていった。

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