第10話:女子って…不思議。
暦も6月に突入したが、最悪な事に関東地方には大型台風が接近しており、外は大荒れだった。
6月に入り、本格的な梅雨の季節に突入していた。 更に現在、日本列島に台風が急接近しているらしい。
[東京テレポート学院高校:1年4組の教室]
籠原:
「梅雨って、ホンマ嫌や。 今日の朝なんて、まるでバケツをひっくり返したようなザーザー降りやで。 おかげで、制服が所々びしょ濡れや。
赤羽:
「この頃、異常気象が多くなったよな。 去年なんて、3月に東京で降雪を観測したぐらいだし。 やっぱ、地球温暖化が原因なのかな。」
溜池:
「まぁ、何にせよこの梅雨じゃ、当分体育の授業は体育館でバスケだろうな。」
籠原:
「そんなぁ。 俺は、サッカーしたいねんけど。」
???:
「溜池君達?」
溜池:
「うん?」
俺達は、担任に声を掛けて貰えるまで話に夢中になっており、気がついたら朝のHRは終わり、既に1限目の授業に突入していた。 幸い、1限の授業は担任が受け持つ英語だったのであまり怒られずに済んだ。
[放課後]
雨は未だに止んでおらず、おまけに台風接近の為に外はかなり大荒れ状態であった。
籠原:
「まだ降ってんねや。 しつこいで、ホンマに。」
赤羽:
「今朝のテレビで天気予報士の石和さん曰わく、今日は太平洋側全域で一日中雨だと言ってたし。」
溜池:
「嫌になるよな。 台風も接近してて風も強いし。」
赤羽:
「今日に限った事じゃないけど、雨の日の電車通学はキツいよな。」
溜池:
「同感。 雨の日は、通学が本当に大変だよな。 籠原は、チャリ通(自転車通学)だから関係無いけど、雨の日の満員電車なんかもうカオスだし。」
赤羽:
「確かに。 ぎゅうぎゅう詰めの中で、更にもわもわとした湿気がこもるから気持ち悪くなるよな。」
籠原:
「そういや、電車通学で一番遠くから来てる奴って誰やろ?」
溜池:
「誰も、どっこいどっこいだろ。 全員、都内に住んでそうだし。」
???:
「失礼ね。 私は、千葉から来てるし。」
急に俺たちの話に割り込んできたのは、蓮根だった。
蓮根:
「それに、亜栖花も延岡君も家が千葉だし。」
溜池:
「へぇ、知らなかったな。」
赤羽:
「それにしても詳しすぎじゃない? まさか…。」
蓮根:
「変な想像するのは、よしてくれない? それに、私はその2人しか知らないし。」
籠原:
「へいへい。 そういや、蔵前はどうしたん?」
蓮根:
「亜栖花なら、もう部活に行ったよ。 私は部活自体どこにも所属してないし、彼女と帰れるのは部活停止中のテスト期間ぐらいだし。」
溜池:
「そっか、この学校は文芸部が無いもんな。」
赤羽:
「じゃあさ、蓮根さんと辰巳で立ち上げてみたら?」
蓮根:
「パス。 性に合わないし、辰巳さんも多分一人で読書したい派だろうから。」
溜池:
「そっか…。 ちなみに蓮根が普段読んでる小説は、どんなジャンル? 最近だと、よくライトノベルとか人気らしいけど。」
蓮根:
「んー…そうだなぁ、考えてみればノンジャンルかも。 古典文学も読むし、ライトノベルみたいな近代文学も読むから。 ちなみに、今読んでるのは数年前に映画化された恋愛小説なの。」
籠原:
「俺は、普段授業で使う教科書の字ですら頭が痛くなるっちゅうのに、活字なんてよく読めるなぁ。」
蓮根:
「籠原は、字より映像の方が解りやすそうな気がする。」
赤羽:
「(小声で)遠回しで、籠原はバカだと言いたそうだな…。」
籠原:
「うん? 赤羽、何か言うたか?」
赤羽:
「い、いや…、何でもない。」
溜池:
「しっかし、一向に止まないよな。 傘を差しても、絶対濡れるだろ。」
赤羽:
「俺達以外の帰宅組も、一向に帰る気配が無い。 もうちょっと雨が弱くなるまで、待つつもりだろうな。」
籠原:
「もう限界や、俺は帰るで! こっから家までそな遠くないから、自転車でかっ飛ばせば時間掛からへんしな。 ほなっ!」
俺達が止める間もなく、籠原は教室から飛び出して帰って行った。
溜池:
「おい…って、行っちまったか。 あいつ、一体どんな神経してるんだよ。」
蓮根:
「じゃあ、私も雨が弱くなるまで図書室で時間潰すから。 多分、辰巳さんも居るだろうし。」
そう言うと、蓮根も鞄を持って教室から出て行った。
溜池:
「はぁ…、どうしよう。 雨は益々激しくなりそうだし、籠原みたいにこれ以上酷くならない内に速攻で帰ろうか…。」
赤羽:
「悪い、先に俺はタクシー呼んで帰るよ。」
溜池:
「良いよな、赤羽は。 家が金持ちだからさ、簡単にタクシーとか呼べるし。」
赤羽:
「うっ、睨むなよ…。 じゃあな、気をつけて帰れよ。」
こうして赤羽も帰宅し、教室に残っているのは俺以外に谷塚、梅島、成田、八頭、豊橋、三河、浜松の7人だけだった。
他の奴等は、家族に車で迎えに来て貰えたり、部活に行ったり、籠原のように現状より酷くならない内に強行突破帰宅したのだった。
谷塚:
「あーあ、朝は雨だけだったのによ。 これじゃ、電車も止まってんじゃないか?」
三河:
「今、止まってるのはJR京葉線と武蔵野線とゆりかもめと…ブツブツ…。」
豊橋・成田:
「(二人共、机に突っ伏して寝ている。)」
八頭:
「(無言で窓から、外の景色を眺めている。)」
梅島:
「雨だ、豪雨だ、大嵐だ!」
浜松:
「どうしよう、お父さんが帰ってくる前に夕飯の支度をしないといけないのに…。」
俺はどうしようもなく外の景色をぼんやりと眺めていると突然、教室に来客が。
(ガラガラ!)
???:
「溜池君っ! 一緒に帰ろっ!」
溜池:
「っ?!」
いきなり、教室に入ってきたのは箱根小旅行以来会ってなかった長岡 蓮である。
溜池:
「え、えーと…、確か…長岡さんだっけ?」
長岡:
「うわぁ、やっぱり覚えてくれてたんだー! 嬉しいっ!」
満面の笑顔で近付いてくる彼女。 動揺する俺。 その様子を訝しむクラスメート。
長岡:
「私、授業中にうっかり眠っちゃって、気がついたら帰りのHRも終わってて。 友達も帰っちゃった後だったから、一人で帰るの辛いし…。」
授業中眠ってて、なのに成績が良いという不思議な彼女の目は、嘘偽りが無いですよと言葉で表せる程、綺麗に澄んでいた。
溜池:
「な、長岡…さん? 外、見てみたら?」
長岡:
「ん? なーにー?」
呆れる程のアホっぽい声を出しながら、彼女は窓から外の景色を眺めると次第に彼女の身体が震えだした。
長岡:
「…えーっ! 何これぇー! グラウンドが水浸しになってるぅー。」
ツッコミ所は、そこじゃない。
谷塚:
「(小声で溜池に)おい、溜池。 誰だよ、この可愛い子? 俺、めっちゃタイプなんですけど。」
彼は、聞く質問が間違っている。
浜松:
「蓮ちゃん、何やってんの?」
溜池:
「知ってるのか、アイツの事。」
浜松:
「えっ、うん! 蓮ちゃんとは、入学式の時に知り合って、帰りが一緒の方向だから次第に仲良くなったの。」
溜池の心の声:
「クラスが違うのに二人が仲良くなれたのは、解る気がする。 波長が合いそうな気がする。」
長岡:
「あっ、真彩ちゃん! まだ居たんだー。 良かった! てっきり、私の知ってる人は溜池君ぐらいしか居ないと思ってたんだ。」
溜池の心の声:
「明らかに、相手を馬鹿にしたような発言したよな…、今。」
浜松:
「(小声で溜池に)ねぇ、溜池君。 お願いだから、彼女と一緒に帰って貰えないかな。」
溜池の心の声:
「ひいっ! 一瞬だけ、浜松が今まで見せた事の無い鬼の形相をしたぞ! 威圧感、凄っ! 笑顔に見えるのに、凄く怖ぇ...。」
浜松:
「(満面の笑顔だが、低くドスの効いた声で溜池に)じゃあ溜池君、よろしくね!」
浜松の意外な一面を見れたが、普段の彼女に比べて何十倍も恐ろしかった。 断れないことを悟った俺は、何とかして長岡に今帰ることが危険だと理解させなければならなかった。
溜池:
「あの…、長岡さん?」
長岡:
「うーん…、えーと、あのね、溜池君?」
溜池:
「どうした?」
長岡:
「そのぉ…、出来たら私の事を”蓮”って呼び捨てで呼んで欲しいな。」
溜池:
「…は?」
長岡:
「だ…ダメかな?」
溜池:
「え、えーと…。」
彼女がなかなか話を聞いてくれそうにないので、俺は次第にイライラしてきた。
溜池:
「あのさ、外の景色を見てもらえないかな。 見ての通り、大荒れだろ。 だから、今帰るのは危険すぎるんだよ。 少し様子を見た方が良いと思うんだ。 解るよね?」
長岡:
「うん、あなた様の言う事はすべて聞くからぁ。 私をあなた様のメイド…いや、雌奴隷にして下さいっ!」
溜池:
「っ?!」
谷塚:
「たっ、溜池ぇ! ! ずるいぞ! 俺の蓮ちゃんを返せっ!」
この後も長岡に話をまともに聞いてもらえないまま不毛な会話が続いたが、風雨が一時的に弱まったのを機に俺は教室から逃げるようにして帰った。 本日新たに知った事は、長岡が俺へ対する変態ドMストーカーである事と、その長岡に一目惚れした谷塚の奇人さだった。