八.連なる孤独。
もったいぶりたくて言葉を切ったわけではなかった。
鴉が視てきたのは、地上の一部も一部に過ぎない。地下もまた然り。
にもかかわらず、双方を較べる不遜を考えてのことだった。
鴉が口を閉ざしたことで、土の壁にこだましていた声もまた、消える。
地下の、道とも言いがたい土のトンネルに、一匹と一羽の足音だけが残った。不思議なことに、ヒミズが何かを言う様子もない。
シャリシャリと土をかく、かすかな音に遅れぬよう、鴉はただ足を進める。
闇の中の沈黙は重く、逡巡は長く続かなかった。
「あの黒は」
息をすうと吸い込んで、鴉は一息に言葉を紡ぐ。
「何も受け入れず、働きかけもしない。ただそこにあるだけのものだ。その潔さ故に美しいが…絶望的に哀しい」
意味を十分に理解した上で語った、とは到底言えない言葉だった。
分からないという返事を予測して、首をすくめる。
だが、ヒミズのいらへは鴉の予想とはかけはなれていた。
「色、とはどんな音がするものかね」
呆気にとられて鴉は首を傾げ、またしても土の壁に頭をぶつける。
どう控えめに見積もっても泥だらけの体だ、構うことはなかろう。
開き直った鴉は、続いて届いた言葉に不可解さをつのらせることとなった。
「それからどんな臭いがするものかね?
触り心地はいいかね?」
音、とはどういうことだろう。
鴉はただただ混乱した。
そもそも色は、見るものであって聴くものではない。ましてや、臭いをかいだり、触ったりできるものであろうはずがない。
そこまで考えて、ハタと気づく。




