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六.いつか、誰か

 

「どこまで行っても白と黒しかない。

 白は限りなく真っ白で、黒は限りなく真っ黒だ。

 すべてがありえないほど分かたれていて、居心地が悪かった」


 声にすればするほどにありありと思い浮かぶ地上の光景の白々しさに、鴉は身体をすくませた。居心地の悪さはあまりに対照的な色彩によるものではなく、忘却されずにただよう記憶の残滓によるものであったのかもしれない。

 それらが、自身のまわりに重くまとわりついているようにも思えて鴉は首を横に振った。確証は無い。


「そうかね。時に、そうなる前の地上はどうだったのか、覚えていなさるか?」


 のんびりと、鴉の様子に気づいた様子もなく、次の問いが前方から戻ってきた。

 ヒミズとの距離が少し遠ざかっていることに気づいた鴉は足を速めた。

 そうして土をかくような物音がかすかに聞こえてきたところで先ほど投げかけられた問いの答えを自分の中に探した。

 土が入らないようくちばしは閉じたまま、しばらく探してみて愕然と眼を見開いた。


「いいや…全く覚えていない」


 うめくように鴉がこぼした声は、土くれにすい込まれたのか響くこともなく消えた。

 思い出しうる限りの記憶を、鴉は辿ってみる。

 確か、鳥籠の中に居た。

 そこまでは思い出せるのだが、その前がどうにも遠い。

 これは大事ではないのか、と慌てかけた鴉の耳に届いたのは、そっけない相槌だった。


「そんなものでがしょうなぁ」


 よくあることなのだろうか、と鴉は首をひねった。

 ひねりながら、思い出した一番はじめの記憶は、まどろみの中。

 確か、声が言ったのだ。


 “時間ガ凍ッタ。

  汝レハ、鍵ヲ見出サネバナラヌ”


 だがあれはいったい、誰だったのだろうか。

 白い大理石の鳥籠。

 その扉は開いていた。

 しかし、いつ自分は鳥籠に入れられたのだろうか。

 この切られた羽にしてもそうだ。

 いつ、誰が、なんのために・・・



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