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二.白と黒。


 白と黒。

 モノクロオムの世界は、静寂のただなかにある。鴉のほかに動くものはなく、吹きつける風さえ音を忘れ続けているのだからそれも道理だった。

 静寂を乱すものはひとつしかない。鴉の足音だ。

 その事実になんら感慨を持つこともないまま、右足を前に踏み出し、真ん中の足を踏み出し、そして左足を踏み出そうとして、鴉はハタと瞠目した。

 右足を前に出したときよりも、垂直に伸びた石の連なりが遠くなっている。

 なるほど。歩けば歩くほどに、視線の先に広がる景色が遠ざかりつつあるのだった。

 奇怪な現象に首をかしげながらも足を速めた鴉は、吹きつける風が更に強さをましたことに辟易としてうつむいた。

 考えるでもない。身体が後ろへ後ろへとおしもどされているのは、歩く速さより強く吹きつける風のせいだった。しかもたちの悪いことに、西へ向かおうとすれば東へ、東へ向かおうとすれば西へ、南へ向かおうとすれば北へ、北へ向かおうとすれば南へ、つまり進もうと頭に思い描く方向とはまるきり逆へ風は吹く。つまり鴉は、思い描いた方向とあべこべに動いていたのだった。


 これでは、どこにも辿りつけないではないか。

 焦りが、鴉の足を速めさせる。だが、速めれば速めるほどに前景は遠ざかり、鴉は風におどらされている我が身を呪うこととなった。そして、呪いながらも足を動かし続けていた。ここで立ち止まってしまえばいい、と鴉は思う。どこにあるともしれない鍵など探してどうするつもりなのか、自分でもよくわからなかった。

 にもかかわらず、歩いて鍵を見つけに行かなければ、という思いが鴉を動かしていた。


《ほおぅい、ほおぅい

 どこに行きなさる小さきおひと》


 どこからともなく響いた声に、鴉はびくりと身体を震わせた。

 それは、鴉がはじめて聴く他者の声だった。



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