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一.終焉と起源

 昨日とも今日とも明日ともつかないある夜。

 雨と雷が烈しさを増して止まない、ありふれた今のことだった。稲光りが世界から黒と白のみを引き出した玉響に、時が凍りついたのは。

 時は、自身のなかに生きとし生けるものすべてを飲みこんでいた。ついこの一瞬まで息をし、空気を震わせ、熱を放っていたすべての生きものたちは、今は静止し、深い深い眠りについている。

 同じ今、鴉が目を覚ましていた。世界の片隅にうちすてられたかつての神殿。今は廃墟と化した大理石の破片にうずもれるように転がった、やはり大理石の鳥籠の中で、目覚めたばかりの鴉は声を聴く。


 “時ガ凍ッタ。

  汝ハ、鍵ヲ見出サネバナラヌ”


 時が凍ったとはどういうことか、何が時を凍らせたのか、鴉は知らない。

 ただ、凍った時をとかすには鍵が必要なのだということだけは知っていた。

 鍵の形状も、在処も、捜し方すら分からないというのに、探さねばと鴉は思う。

 それは、自分にしかできぬことだ、と。


 “汝ハ、鍵ヲ見出サネバナラヌ”


 脳裏に焼きついた言葉に導かれるように、鴉は鳥籠の扉の前に足を運ぶ。

 堅く閉ざされていたはずの扉は、大きく開け放たれていた。

 はやる心のおもむくまま、切られた翼をはばたかせる代わりに3本の足を動かして、鴉は白い扉を後にする。大小さまざまな白い破片の間をくぐりぬけ、幾重にも連なった檻のような廃墟を通りぬけたその先にあったのは、白と黒の世界だった。

 世界はどこもかしこも黒々としていて、空をかける稲妻だけが白い。

 その色彩が何より異様であることだけは、なぜだか理解できていた。

 では本当の空は何色で大地は何色なのか、と首をひねった鴉は、だが想像することすらできないまま肩を落とすはめになった。


 なるほど、時間が止まったとはこういうことか


 納得するともなく考えて、鴉は歩き出した。

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