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十.地底の落下。

「どこへ、とおっしゃるか、小さきおひと

 また、おかしなことを言いなさるものさなぁ」


 くぐもった声でヒミズが笑った。

 首の後ろにむずがゆさを感じて、鴉は眼を細める。だが視界に広がっているとらえどころのない闇のあまり好きにはなれそうにない雰囲気と、すぐにも眼に入ってきそうな砂粒に、元のようにまぶたを下ろした。手探りで歩かざるをえない今、眼を閉じない理由など一つもなかった。


「わしの庭ならどこへでも、とゆうたとおりに参りましたがなぁ」


 いつの間にか鋭敏になった聴覚がとらえた何のてらいもない声音に、鴉は安堵する。 

 わしの庭、とヒミズは言う。そこには、この地下の世界をよく知っているものでなければかもしだせもしないような説得力がにじんでいた。だからこそ、鴉は安堵したのだった。あてどもなくさまよい、風に流されていた地上でのことを思えば、泥だらけになるくらいどうということもなかろう、と。果てもなく歩いているような閉塞感を振り払った鴉は、取り戻した希望も明るく踏み出す足に力を込めた。

 その足が再び土を踏んだ、その瞬間だった。足元の土が崩れたのは。


「小さきおひとは、わしより重かろう。なれば、そこは通れぬなぁ」


 耳を打つ嘲笑の禍々しさに、鴉は眼を見開いた。ヒミズの言葉をゆっくりと噛み砕いてからようやく理解した頭がうなる。

 まさか、騙されたのだろうか。こんなにも簡単に。

 その間にも、身体は垂直に落ちはじめていた。

 足をかける場所もなく、切られた翼は羽ばたきもしない。落下を止める手立ては何一つなかった。できる限りの力で土塊をつかんでみたものの、これまでちょっとやそっとの力では動かなかったことが嘘のようにつかむそばから崩れてゆく。叫ぶ余裕など欠片もなかった。

 土塊や何か硬いものが当っては、先に、もしくは共に落ちていくのが感じられて、鴉は闇ばかりしか映さない眼をつぶり直した。土が入らないように、と考えてのことだった。身体は、今や先ほどの歩調よりも早く動いている。動かない翼を鑑みるまでもなく着地などできよう筈もない。

 走馬灯が、脳裏をよぎった。

 鳥籠の中を、白黒の世界を、逆流する風を、聴こえた声を、地下の闇と温もりを・・・これまで感じたありとあらゆるものを、とてつもない速さで映し出しながらあふれる記憶は、鴉の身体を襲った衝撃によって途絶えた。

 

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