〈2〉
液状クッション搭載のハイスピードロウブームモデルのビークルが広場に横一列、縦列駐車をしている。散々ユエに解説をされたからフレーズだけは覚えていた。
五人の姫がようやく出揃い、これから出発、といったところだ。
「よく一日で用意できましたね。」
マリーがルオンに話しかける。ビークルの用意を自ら申し出たのがルオンである。彼女が手を挙げなければ、宮殿に常備されているVIP用のビークルを出してくるはずだった。
「何事も用意周到であるべきなのですよ。」
ルオンはニコニコとしている。
最新型をこれだけすぐに用意させられるのは一星の姫たる所以か、それとも。
「とかいってル・ルオン、あなたこういうときのために最初からどこかに隠してたでしょう。」
「まあ。ふふふ。」
イブとルオンは互いに悪い笑みを交わした。
「ルオン、みんなの準備は整ったみたいだ。」
少し用意にもたついていたドゥニアたちタイタン人が大一に合図を送る。
ふと目に入ったドゥニアの表情も柔らかく、今日は心穏やかであるようだ。いや、少しばかり高揚しているかもしれない。
「ありがとうございます、現王様。その、えっと…あたしのために…。」
大一は首を降る。
「ドゥニア、今日はみんなで出かけるんだ。みんなも喜んでると思うよ。」
あくまでドゥニア一人のためのプレゼントではなく、ドゥニアの計画でみんなを楽しませるというプランなのである。事前にいくつかドゥニアには資料を渡し、大一はそれのフォローに回ることを考えた。
「一晩でそこまで考えられたのですね。」
こっそりユエに労をねぎらわれていた。褒めているように聞こえなかったが、それでもずいぶん大一のやることを肯定してくれていたようだ。
「今日はがんばろう。」
うん、とドゥニアが拳を握る。
「では、搭乗を。」
ルオンがビークルのドアを開けて大一を手招きする。卵のような曲線で先端になにか鋭い槍のようなものがついている。さながらその姿はイッカククジラである。
車内は生き物の体内のように柔らかく、床に手を置くとぷよぷよと弾力がある。座席シートがないところを見ると雑魚寝をしながら移動をするようだ。
「現王様は柔らかいのがお好きですか?」
「っ!」
ルオンが息を吹きかけるように耳元で囁く。
「い、や!その!」
「ふふ、ご油断めされませんように?」
口元に手を当ててウインクをする。
搭乗しないままビークルの感触を楽しみすぎていたようだ。大一は赤くなったままビークルに乗り込む。
(あれ、これ土足厳禁か?)
そういえばシートもないので靴は脱いだほうがいいかもしれない。
(なんだって今日は紐の多いブーツを選んだんだろう。)
アウトドアになるのでしっかりした靴を選んだのだが、ここで裏目に出た。
「よいしょ。」
大一が靴を脱ぐのに手こずっているとルオンが足に手を添えて一本一本解くのを手伝ってくれる。
よくよく見てみると彼女との距離が近い。
「うーん、こちらがわからだと脱がせにくいですね。」
わざとらしい声を出すが大一は気づかない。くるりと大一に背を向けて足をいじりだした。背を向けて目に入る首周りがゆったりとした服。露わになった肩甲骨が目に止まり、彼女が手を動かすたびにくねくねと隆起する。
足元が蒸れるのを感じた。
「あ、いや、ルオン!靴ぐらい俺自分でやるから、みんなの案内を…」
必死さが出てしまう急に足の臭いが気になりだした大一。
「みんなこれに乗るんですよ?」
「えっ狭くない?」
運転席が前につき、横になって後部席に入るとしても、三人ぐらいが限界の幅である。
「ピッタリくっつけば五人六人乗れますよ。ただ…」
ルオンが振り返る。そっと手を伸ばした。
「上で重なるのはワタクシにしてくださいね?」
冗談を言っている瞳には見えない。そんなに密着されては大一は到着する前に…。
「スルカ姫、早くしていただけませんか…って何されているのです?」
「あ、ま、マリーこれは!」
やましいことはないのにマリーがやってきて慌てる。
「毎度のことですからもう驚きもしませんよ。ほら、スルカ姫も。」
「まあ。流されてしまいました。」
それでもどこか楽しげなルオン。大人しく他の姫の方へ戻っていった。
こうして一行は旅立つ。




