〈8〉
ザニアトリ自然公園。ドゥニアはそこへ行きたいと言った。大一のもってきた資料にない場所で、大急ぎで検索機から情報を集める。
「人類誕生の地?」
「はい。一度この目で見ておきたいんです。」
ドゥニアの目に光が満ちる。
観光スポットとしてはあまり人気のない場所だそうだ。大陸の南側に位置するその場所は長い年月をかけた緑化活動の末、自然公園と呼ぶことができるようにまでなれた。
ただ本当に見どころは人類発祥の地で足跡の化石があるというところのみなので、あまり家族や夫婦やカップルで行くような場所ではないらしい。
だがドゥニアが行きたいと言った。
「ドゥニアはザニアトリがどんなところだか知ってるの?」
いつの間にかソファから身を起こしていたイブが端末をくるくると巻き取る。
「うん、人類の軌跡を知るところだって。」
少しずつ明るさを取り戻し始めたドゥニアにそれ以外は特にないよ、とは言い出しにくい雰囲気。
「誰かそこに行ったことがある人はいる?」
大一の問に全員がない、と首を振る。
「なら、いろいろ発見もあるかもしれないし、行ってみようか。」
大一がこう言えば否定する人はいなくなる。
「あっありがとうございます!」
ドゥニアが喜んでくれた。ひとまず目的の半分を果たせたと言える。欲を言えばもっとみんなと意見を出し合いながらああでもないこうでもないと話しておきたかったのだが。
ザニアトラ公園へ。へぇ、とユエが答える。
相談のあと各自明日の支度のために自室に戻った。
「まずかった?」
「いえ、特には。ただ面白くもないと思いますが。」
がっかりスポット扱いされている。もともと広大な荒れ地と足跡のある遺跡だけだった場所を観光地化したものだが、遺跡の調査員と地域開発担当の者で意見が食い違い、緑豊かになるまでしか手を加えることができなかった。
足跡の化石が保存されている遺跡ではまだなお調査が続けられており、関係者以外立入禁止の区域が多い。にも関わらず強引に開発を進めたので、中途半端なエリアが完成してしまった。
ドゥニアは地球に憧れている。
(がっかりされないといいけど…。)
せめて自分が楽しめなくても、そこだけはなんとかしたい。ようやく5人揃った姫たちが穏やかに過ごせるように大一は少しでも力になれたらと思っていた。




