〈7〉
堅苦しいから、そこになって調べててもかまいませんか?と相談が落ち着いたころにイブから要望があがった。確かにピクニックに行く場所を決めるのにこの円卓は大きすぎる。
(もっとこう、勉強机ぐらい頭をつき合わせて…)
大一の脳裏に浮かぶ、青春の一ページの理想像。放課後、好きな人とそうやって笑いあったりできたら…なんて何千何万とも妄想してきた。ささやかでありふれたものだが。
「もうちょっと机を狭くすればよかったか…」
「?…なぜですか?」
隣のシーラが聞き取ったようだ。うっかり声に出していた。
「あ、いや少し離れすぎて確かにこれだと会議っぽいなと思って。」
特にごまかす理由もない。
「じゃあここで一緒に見ます?現王様。」
すでにソファにうつ伏せになって端末をいじっているイブが手招きをする。
「い、いや俺は普通に…」
「そもそも寝そべっているせいで腰を掛けるところがないではありませんか。」
イブは頬杖を突く。
「そりゃあ一緒に寝そべるのが正しい答えよ。もちろん下は現王様。」
シーラがとがめる。
「それは失礼ではないですか?」
「夫婦になったらそれぐらい当たり前よ。」
ソファの上で体を重ねるのは普通ではないと思う。
「それに私そんなに重くないし。」
余裕しゃくしゃくでイブが笑う。それも、まあ大一が本当にそういうことをしないとわかった上でやってみせているのだろう。
「いや、もう発想がふしだらです。」
横から入ってくる苦々し気なマリー。やらないとわかっていても、どうも人前でべたべたするの(を見ること)は嫌いなようである。
「それもこれも決めるのは現王様ですよねえ…。」
「…そっそれより、皆行きたいところとか見つかりそうかな?」
「あっごまかされた。」
できないことはできないのだ。想像しただけで軽く全身がほてってくるのに、実際にイブの整ったプロポーションで上に乗っかられてしまったらどうなってしまうのか、想像に難くはない。ただでさえイブは薄着気味なのだ。
「先に現王様が限界に達してしまい…おそらく気絶されてると思うので会議の時にするべきことではなさそうですね。」
ルオンは冷静に分析しているようで、大一をいじるような内容のコメントを残す。
「…皆さま先ほどから聞いていると現王様に対する態度としてふさわしいとは到底思えませんが?」
低く冷たい抗議の声。大一は慌ててシーラをなだめる。
「いやそれは俺がださ…」
「どうか、卑屈にならないよう。あなた方には敬意というものが欠けていますわ。金星のイブ殿、はきちんと物を見る観察眼があるのかと思いましたが、こうも分別のつかない方だとは。」
呆れて首も降るのも面倒な様子のシーラ。再び会話が重くなり始める。
「現王様、失礼なことを言う方には、最初にまず不服申し立てるべきです。」
「でも本当のことだし…」
否定できないから抗議のしようもない。それにルオンもイブも悪意を持って大一のことをいじっているわけではないのは分かっている。
「シーラ姫には同意です。スルカ姫とザハブパトラ姫はたまに度が過ぎた発言をされることがあります。いつも許されているので私は指摘しませんでしたが…。」
「意見が一致するとは珍しい。少し見直しました。」
「それはどーも。」
マリーとシーラはお互いカドが取れないままだが、少なくともこの時点では相手のことを尊重できているようだ。
「待った待った、俺は本当に気にしてないんだって、いつかは慣れるだろうし。できてないのは克服すればいいんだし。」
少し暗雲が立ち込めたところに大一は割って入った。
「みんなでこれから遊びに行こうって時に、ケンカはだめでしょ。」
そう言って大一は周りを見渡す。なぜだか全員きょとんとした表情をしていた。俺は変なことを口走ったか。
「やはり…」静まり返ったサロンの右からポツリと声が聞こえる。
「『王』は度量、だと思います。どんないやなことも笑って受け入れられるような。」
ドゥニアだった。彼女の声が力強く響く。
「嫌なら嫌といえば…」「そもそも嫌なことをするのが間違っているのでは…」「少しぐらい砕けた会話もしたほうが…」「どこまで言っていいのかわからない…」
それぞれが話し出す。だが、大一は立ち上がってこたえる。
「ドゥニアの言うとおりだ。驚いたり慌てたりはするけど、俺なりにみんなとは普通に会話したい。」
言い合っていた四人が頭を下げる。
「ドゥニア、ありがとう。」
「え、いいえ…その、あたし何も…」
その時、何かが閃いてポンと手を叩く。
「今度遊びに行くところはドゥニアの行きたいところにしよう。」
うん、とほかの4人の姫たちがうずく。現王様ごめんなさい。失礼しました。そう一人一人答えてくれた。




