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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
シェルター計画 前
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〈6〉

 大一は中央の席につくと円卓を囲む姫たち一人ひとりに視線を送った。それぞれの手元にグラスが用意されている。

「えー」

 んっんっ、と大一は一つ、わざとらしい咳払いをして話を切り出す。

「みんなをいきなり呼びつけて申し訳ない。今後のことで少し話し合いたいことがあって。」

 全員が静かに見つめてくる中、淡々と話を続ける大一。卓の中央に全方位多面投影機が置かれている。大一はそれに手を伸ばしもせず、トントンと机を二回人差し指で叩くと自動的に投影機が画像を映し出す。

「みんなでどこかへ出かけと思って…」

 言い終わらない内にマリーがダァーと息を吐く。

「びっくりしたあ、なんの話かと思った。」

「いつになくキリッとされてたからねえ。」

「現王様、これでは相談ではなく会議ですよ…ふふ…」

 まず声を上げたのが向こう側三席に並んで座る、マリー、ルオン、イブ。シーラはいつもの様子で静かに従っており、ドゥニアはまだ状況がわからずキョロキョロとしている。

「ま、まあ、つまりそのことについて話せたらと思うんだ。資料はいくつか集めてみたから、日帰りで行けるところを話し合って決めたい。」

「まあ、珍しく用意がいいですね現王様。」

「ザハブパトラ姫、流石にそんな言い方ないですよ。」

「そういうマリー様も否定はされないのですね?」

「や、そういうわけじゃ!いや、思ってなくも…」

「どっちなのよ。」

 三人が話し出すだけで全体が賑やかになっていく。ただそれを良しとしないものが一人。

「みなさまは不敬です。現王様が決められたことに意見をするなど考えられません。」

「シーラ、それだと相談ならないから…。」

「も、申し訳ありません、そのようなつもりでは…」

 すぐに大一がシーラを抑える。

「今日はまあ無礼講?みたいな感じでさ、シーラの行きたいところも聞きたいし。」

 礼儀を尽くされたのは多分一度もない。毎日が無礼講状態なのだが、まあこの際、シーラが発言しやすくなるのであればと言ってみる。

「左様でございますか。では資料を確認いたします。」

 大一が言えばすんなりと受け入れてくれることも多いシーラ。大一は右に座るドゥニアに目配せをする。なにか言いたそうな、もどかしそうな心境をつぐんた唇から想像する。

「ドゥニアはどんなところに行きたい?」

「えっあたしですか…?」

 やはり、少し元気がない。今回の相談の鍵はの両隣に座る、シーラとドゥニアにある。すなわち、シーラが納得をして、ドゥニアの正直な気持ちを引き出せれば成功と言える。もちろん事前にルオンから忠告されたことである。

「地球は初めてなので…現王様のお気に入りの場所であれば。」

 そのドゥニアの笑顔に寂しさを感じ取れる、大一は成長していた。

「俺の好きなところか…」

 大一もまだこの世界の全貌など知らない。世界地図は見つけてくるが昔知っていたものではなく大陸がいくつか移動したり合体したりしていて、想像ができない。

「それもいいんだけど、ドゥニアは地球に憧れてたんだよね?」

 地球への憧憬が強いのがタイタン人の特徴で、ドゥニアも例にもれず地球に対してすごく愛着があるようだ。

「見たいところとかやりたいこととかいくらでもやっていい。」

「ドゥニア様、せっかくここまでおっしゃってくださっているのですから、わがままを言っても構わないのですよ?」

「ん…。」

 少しうつむいたままだが、大一の用意した資料を眺め始めた。シーラの行き過ぎた発言をなだめ、ドゥニアの発言を促す。ルオンと大一の作戦である。

「中央の投影からそれぞれの端末にデータを送るからそれで確認してほしい。」

 もはや、ひと星の姫といえど電子デバイスを常に携帯しているのは当たり前の世界だ。持っていて当然である。

 ルオンやマリーは腕時計型、イブは大きめの折りたたみパッド。(巻物のように丸めて腰にぶら下げている。)ドゥニアは手のひらサイズの懐中時計のような丸いものを使っている。そして、シーラだが。

「…」

 これが驚くことに書籍のような形をしている電子端末。本の体裁のそれは、本当に一枚一枚ページをめくることができ、情報をそのページに一枚に自動的に表示することができる。

 静かに本をめくる、どこか憂いを感じさせるその姿は、深窓の令嬢と呼ぶにふさわしい。白く細い指先がページにそっと触れて読み進んでいく。滑るようにページが開かれ、めくるときの音も大一にははっきりと届く。

「あの、現王様。そんなに見つめられては…。」

 少し恥じらうように顔を伏せる。

「あ、ごめん…それ、すごいな」

「これですか?」

 シーラは手に持った文庫サイズの端末を持ち上げる。わからない風を醸してはいけなかったか?大一はハッとする。

「これはカリストの技術の最先端、ブック、です。これに気づかれるとはさすが現王様。」

 大一に褒められて誇らしげである。

 イブも巻物状にして持っているが、曲がる電子媒体というのが恐ろしいほどの技術なのである。何がどうしてそうなっているのか、検索機が働いてもさっぱり理解できない。

「シーラが持っているのが最先端なのね。私もカリストから取り寄せたんだけど一つ型落ちってところか。」

 イブがくるくると巻き取りながら会話に入ってくる。

「これはまだ普及には至っていないので…しかし我々の技術の高さに目をつけるとは、なかなか金星のイブ殿も目が肥えてらっしゃいますね。」

「ええ、お褒めに預かり光栄よ、シーラ。」

 相談会はまずまずの出だしで迎えられた。

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