〈5〉
ルオンを部屋まで送った大一は一人で自室に戻っていく。アンドロイド、人間が働いているが各姫は思い思いの時間を過ごしている。『王』ならば常に誰かを侍らせているのが普通だろうか。そんなことはない。俺は俺にできることをする。
大一はなるべく本物のことを考えないようにした。いつからかもとの世界に帰る方法は探さなくなっている。諦めたから、だけではない。自分を慕ってくれる彼女たちにちゃんと向き合いたい。それができないのであれば『王』なんかじゃない。
部屋に入るとすぐにテーブルと椅子を用意する。普段これらは室内にしまわれており、大一のデバイスから室内管理プログラムに指示を送ることでスムースに滑って出てくる。
「よし。」
反重機付きの椅子にズシリと座り、ルオンから情報を共有した電子パンフレットを眺める。紙の方はルオンがしっかり持っている。
「資料集めからすればいいんだろうな。」
こういうときに便利な検索機能。どこから情報を持ってくるのか知らないが、少し頭をひねるだけでいろいろと候補地が上がってくる。日帰りがいいだろうか、それともどこか一泊ぐらい…?
(行楽って言うなら日帰りだよな。)
しかも太陽系のVIPが泊まる場所などそう簡単に用意できないだろう。
「失礼します。」
「わ。」
ふいに入り口が開いてユエがやってきた。
「どうなさいましたか?」
冷静になってみれば隠す必要なんてないのに、そのタイミングで何故か覆いかぶさるように机に突っ伏した。それを見たユエは、
「何やらやましいことを?」
と、本気なのか冗談なのかわからない問いかけをした。
「違うって。」
「ご旅行を計画されているのですか。」
ゆるい腕の隙間から電子パンフレットのページをみとめてユエは得心した。
「王族御用達のリゾート地などもございますが。」
パンフレットにはならないような、もっとすごい情報をユエが開示してくる。
「いや、旅行じゃなくて、日帰りでみんなと遊びに行けたらと思って。」
「そういうことでしたか。では、私がいくつか候補をご用意いたしますので、その中からお選びになって…」
「まって。」
テキパキと何でも揃えてしまいそうな勢いのユエを止める。
「今決めちゃえば楽だろうけど、これはみんなで決めたい。」
「かしこまりました。」
深くは問わず。頭を下げたユエは少し笑っているようだった。




