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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
アストロニカルパレード
9/190

(1)

 ユエ、そしてこの時代の人たちが自分にしたことをまだ許す気にはなれない。正直まだ返してもらえるなら帰りたい。しかし知ってしまった。

(この時代で必要とされている…。)

 大一は鏡の前で椅子に座らされ散髪用マントを羽織っていた。この鏡というのもすごい技術で自分の周りをぐるりと囲うように弧を描いて湾曲しているのにもかかわらず、まっすぐ見つめると歪みなく自分の顔が映っているのだ。刈られた頭がどこから見てもつるりと輝いている。

「お好みの髪形などはございますか?」

 これから髪を作る。本当に身の回りのことを全部やってくれるようだ。ユエがサンプルの髪形を立体映像で見せてくる。と言われても戸惑う。生まれて16年一度もお気に入りの髪形など考えたことがない。短めで、さっぱりと。あとは理容師さんの腕にお任せするだけ。

「『王』と同じ髪型でいいです…。」

「パレードは公の式典なので、『王』がお決めになられなくては困ります。」

 引き受けるといったときから彼女の中ではもう大一は『王』なのだ。しばしの沈黙が訪れる。

「あの…」

 耐えかねて大一が白状する。

「髪型とか決めたことないんです、いつもなら短くしてもらって…シャンプーしてそれで終わりで…」

「なるほど。」

 それに答えるように、あの腕についた端末をいじる。部屋の装置と連動しているのか手術室のような病室のような白の天井からムーンと鈍い機械音が響いてきた。

「とりあえず毛を植え付けますね」

 ポンと軽い決定音のあとに突然

「あたたたたあでででででで!!?」

 高速で動く無数の機械のアームが大一のハゲ頭を乱打する。チクチクという痛みよりは軽くを叩かれ続けているようで脳が揺れる。視界も揺れる。

 数分後、先程のはげ山から未開のジャングルのように生い茂る黒い髪に大一の頭は覆われていた。視界を邪魔するほどの大量の髪の毛で鼻も口も目も耳もすべて隠されてしまっている。毛の向こうからユエの声がする。

「ではまず生え際、つむじと分け目を作りましょう。」

 グイグイとロボットアームが櫛をかけながら前髪を後ろに持っていく。頭頂部から少し後方をグリグリと何かになぞられる。前が終わったら右、左とサイド。最後にうなじ周り。大一の新しい髪は作られたつむじに向かって、引っ張られて伸された状態である。地に逆らって髪の毛が逆だっている。

「長さはどのくらいがいいでしょうか。」

「短めにして全体に合わせて耳を出す感じで…」

 あまりに使い慣れた呪文のように流暢にしゃべるからか、ユエはキョトンとしていた。だがすぐに表情を戻し、

「いくつかサンプルをお見せしますので気に入ったものからお選びください」

 と大一に伝えた。

 ぐるぐると目の前を回る立体映像の生首。太陽系のイケメンが揃えられたのか出てくる人出てくる人、骨格から肌の色まで差異はあれど整った顔立ちをしている。

(遠い未来って言っても人類はそんなに変化してないのかな…)

 興味も気力もわかないせいか関係のないことを考えて眺めていた。

「お気に召しませんでしたか?」

 そんな心中を察してか、ユエが鏡越しに覗き込んでくる。

「なんていうか、似合ってる髪に対するイメージが…なくて」

「では立体投影をして似合うものを探しましょうか」

 何でもいいです。と心無い一言がでかけたのを大一はなんとか飲み込んだ。これは肌で感じているのだが、ユエは無表情でわかりにくいものの髪型選びに積極的だ。一つ一つぽんぽんとモサモサの頭にかぶせるように映像が映し出されている。切り替わるたびにユエが大一の様子をチラチラとうかがってくる。

「あの…ユエが似合うと思った髪にして…」

「えっ」

 今言ったセリフが急に恥ずかしくなった。

「ほっほら!ユエ…さんは本物の王を知ってるわけだし!それと同じにしてくれれば!」

 慌てて前言を撤回する姿がさらに恥ずかしさを加速させる。

「一理ありますね。」

 彼女は息が首にかかるほど近くに歩み寄る。急に手のひらに汗がにじむ。なんだか体も硬直してきた。添えられたのはハサミではなく頭半分を覆うパーマ用のドライヤー…のような不思議な機械。

「前髪は多少すいて分け目に沿って流しているのが好きです。横は短くしつつ少し跳ね上げて…」

 ユエがピッピッピッと手際よくボウル型装置を操作していく。もう後はなすがままだった。入力が終了し、作動ボタンを押したのかモーター音が360°から聞こえる。ヒートカッターなのか作業中すごく頭が熱くて蒸れてしまう。油の焦げた匂いが鼻を通っていった。

「できあがりました。」

 心なしか満足げなユエの声。

「では髪を流しますね。」

 シートが倒される。また何か未来の機械が洗ってくれるのだろう、と大一は油断していた。

「あっふあっ」

 ほっそりとした彼女の指が大一の髪の間を水とともに抜けていく。そのこそばゆさを上回る彼女の体が密着しそうなほど近づいてることが目下の問題であった。

 大一は目が潰れるほどまぶたを固く閉じた。シャンプーの匂いだと思っても漂ってくる香料の香り。時々彼女の服が自分の顔をなでていく。緊張したり緩んだり忙しないひとときであった。

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