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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
シェルター計画 前
89/190

〈1〉

 姫たちのためのサロンは中央居住棟内と、謁見の間のある本館から西に向かった大浴場などのあるメテの棟にある。ちなみにたびたび使っていた後宮は話し合いをするための場所ではないが、密会には最適である。

 今回はメテのサロンにマリーと使えの者たちと、イブとその取り巻きが集まっている。

「それで――。」

 イブはいつもと相変わらず全身をソファに預けて、何やらご立腹のマリーの話に耳を傾けている。扇であくびを隠しながら呆けた表情をしている。

「現王様が、そんなこというもんだからつい怒ってしまったと。」

 くくく、と苦笑し扇であおぐ。

「そうなんですけど…。」

 イブに対してやはりマリーはピシッと肩を張って背もたれに寄り掛からず椅子に前よりで座っている。

「困ったものよね。」

「現王様には本当に…」

「いや、あなたもよ。」

 大一が「自分のことを気にかけてくれるのは、自分が『王』であるからだ」と言ったことに腹を立てたマリーはどうしても誰かに聞いてほしくてイブに声をかけた。

 ルオンだと、相手を許すべきだ~とか、現王様なんですから仕方ないですよ~とか緩いことを言われるに違いない。ドゥニア相手にまだこういう話は早い気もするし、彼女はタイタン人らしく現王様に対して心酔しているのであまり話せない。シーラは論外。ということで一番余裕のあるイブに対して愚痴を吐き出したかったマリーであった。

「私も、ってそれは確かに、不満だけ述べて具体的に何に対して不満なのか言っていないのは、私も悪いとは思いますけど。」

「それよ。」

 扇の先を振ってマリーの訴えを止める。

「最近ちょくちょく現王様の面に向って、不満を表すのが増えてきていると思うわ。ローズマリーは特に。」

「相手の悪いところも指摘できるのが正しいことだと思います。」

 より一層背筋をピッとただす。

「そうね。」扇で口元を抑えた。

「普通の夫婦ならそうでしょう。でも忘れてない?私たちは本当は正妻の地位を狙いあう競争相手なのよ?」

 そういわれて口が半開きになったマリーを見てもイブは含み笑いをやめない。

「現王様は正直驚くほど、私たちのことを選ぶ気がないわ。…むしろその逆。」

「みんなが~ってやつですね。」

「そ。文句が言えるのも、まあ、あの方の俗っぽさかしらね。感謝したほうがいいぐらいよ?」

 論点をはぐらかされている気がしないでもないが、確かに『王』に対して不平不満を直接、はっきりと述べるのはなかなかないことである。他の候補者の陰口や、相手への不満を訴えることはあるが、『王』本人の問題を指摘するような者はまずいない。

 そのうかつな一言で不興を買ったら候補者から外されるのは当然の結果である。極力相手にこびて素の感情を出さないようにするのが王宮での渡り方、である。

「ローズマリーには悪いけど、現王様がその気なら喜んで私はあなたのことを蹴落とすわよ?」

 じっとその翡翠の瞳に捕らえられて、マリーの桃の肌から血色が失われていく。

「ふふ、相談に乗ってる時点で…それは、今のところないけれど。」

 手に持った扇で固まったマリーの顔をあおいでやる。

「5人が集まったことで、ようやく本番になったわけだけど…現王様はみんなにいい顔しようと頑張っていらっしゃるのであまりそんな感じがしない。ただここだけの話…あなたたち相手なら私が一番になるのは余裕だと思う。」

 いじわるな笑い声を漏らしてマリーをあおる。

「ず、ずいぶん自信があるんですね…。」

「そりゃあ~まあ~ねぇ?」たじろぐマリーに大げさに返事をした。

「ルオンは小細工が多いけど恋愛面は純粋。ドゥニアは恋と愛が分かってない。あなたは完全に初心者。」

 ぐうの音も出ず悔しそうに食いしばる。

「まあ、手ごわそうなのはペルンロード、シーラぐらいかしら。」

 シーラの名を出されてマリーは険しい表情になる。

「ザハブパトラ姫でも手ごわい、と。」

「だって。」ケラケラ。

「外堀を固めるどころか現王様と私たちの間に防壁を築こうとしてるんだもの。あなた何しに来たのよってレベル。あの娘だけ正室争いとは別のことをやってるわ。だから現王様と二人っきりになるのが大変よ。」

 扇の下に隠れて笑い続ける。

「ともかく、シーラに先んじられてはまずいわ。気が付いたら一切寄り付けなくなるかも。彼女自身も。」

 やはりザハブパトラ姫は頼りになる。マリーは心のうちで彼女のことを認めていた。自分の不満、心配を一笑して取り去ってしまうのは彼女のほかにいないだろう。それと同時に彼女との大きな差も感じる。男性経験の浅さではあるだろうが…。

「それとローズマリー?」

 うんうん、と前向きに考え直していたところにイブがソファから身を乗り出してきた。

「あなた、訓練中、現王様と二人っきりだったのよね?」

「ええ、まあ。」

「何日もあったのに『一緒に汗を流しに行きませんか』ぐらい言えなかったの?」

「っ…そ、そんなこと言えるわけないじゃないですか!?」

 想像してしまったのか今度は火星のように真っ赤になる。

「…まあ、ローズマリーだもんね。」

 やれやれと火照ったマリーを扇であおってあげた。

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