〈3〉
一人の大男が大一の目の前に立っている。その腹部を殴ると胴に手がめり込むのを感じ、28と数字が表示される。
トレーニングプログラムでこの棒立ちの男を正しく攻撃する練習をするためのものらしい。きちんと殴れると相手は強くリアクションを取るが、先程のようなへなちょこパンチではびくともしない。さっきの評価で28ポイント手に入れたようだ。
こうなったというのも心の内をマリーに打ち明けた後、
「わかりました。現王様の思いは。ただ、無礼を承知で言いますが、これでは頼れる男性などまだまだ先です。私でよければ訓練に付き合いましょう。」
と、なにや自信ありげに言われたものだ。結果、この投影ゴーグルをつけての訓練をしているわけだが……
「がっ!」
このように衝撃は本物のようで、ちゃんとしたパンチ、キックが打てていないと参考として一発スローモーションでお見舞いされる。ついでに先のポイントも差っ引かれる。
「現王様、ほらほら、ちゃんと相手を見て!ああ、そんなブンブンふったって意味ないですよ!」
ドゥニアが持ってきたゲームのように外野はモニターでプレイの様子を俯瞰することができるようだ。
相手はほとんど微動だにしないので殴り放題だが、有効打が全く打てない。それどころか、何度も返しのパンチで少し目がチカチカしている。
「ぐうう!」
ムキになって幻影に殴りかかっても人を殴ったことがなかった大一にはどうも難しい。ついでに一発殴られる。
「ぶっ!」
右フックが大一の左の頬を打つ。ご丁寧に打つ前に指導用として半身を切って殴ってくれた。
時間終了である。
「いかがでしたか?」
「いや、もう…ぜんっ、ぜんわからなくて…」
はあはあと呼吸が乱れて一通りの運動ができていたことはわかった。
「じゃあ、次ですね。」
「えっ。」
マリーは不思議そうな顔をする。
「現王様、まさかもう辞めたいのですか?」
トレーニングのオーバーワークは逆に体を痛めると聞く。呼吸が落ち着いてすぐ次にするのはいいことでは…
「始めて数分ですよ。」
「そ、そうだった…」
体力がないわけではなく、標準的な体つきだが、なれないことが予想以上に披露をためてしまっていたらしい。でもまあ…
「続けようか。」
「もちろん。」
マリーはどこからもってきたのかトレーニング器具を取り揃えてくれている。
「これは?」
大一が目をつけたのは一枚のボード。
「使いますか?」
マリーが腕の端末からボードを起動させる。足跡のようなマークが浮かび上がる。なるほど、ここに乗れということか。大一は疑問も挟まず、足を台に乗っけた。
「あっ。」
両足を乗せた瞬間、後方に引っ張られ始める。これはどうやらルームランナーのようなものらしい。なんの技術かそこから落ちることはないが、足がどんどん後ろに持っていかれる。
「あだっだっだっ!」
「走って走って!」
マリーは手を差し伸べない。そうだ甘えてる場合じゃない。大一は一歩一歩前に踏み出す。ちゃんと走れるまでに、何回も足を後ろに吹き飛ばされそうになった。




