(8)
少女が去った波打つ噴水の水面。いつの間にか日が暮れて庭に明かりが灯された。無機質な光が大一の影をくっきり映す。その中で大一は自分の頭の払い忘れた葉を取っていた。
「末永くお側に…か」
そうつぶやいた彼女の横顔を思い返す。仕草や佇まいから彼女が『王』のお嫁さんなのは疑いようがない。もうすでにやってきているとは。顔合わせの時期はいつだろう、本来ならその『王』がいなくなったという惑星巡行のときだったはずだ。そこでも会えず、ここでも会えず…。彼女の他にもあと四人。
皆何かしらの想いを抱いてここに来ているのか、そう思うと背中のあたりがむず痒くなる大一である。
「よし」くるっと踵を返す。
「あっ、えっ、わっ」
「母音の練習ですか」
偶然なのか大人の女性、王の秘書、ユエがすぐ後ろに立っていたせいで慌ててよろける。
「…いつからそこに?」
さすがに水星の姫との会話からいるはずはないだろうと思いつつもユエに問う。
「頭の葉をとっていらっしゃる姿が見えましたので。」
(そうか、ついさっきか…。)
「お体はなんともありませんか?」
ユエはその手をそっと伸ばし血がまだ流れるおでこを指で拭った。
「蘇生されたばかりであまり興奮されてはいけませんよ、大切なお身体なのですから。」
「『王』の代理、だからそりゃ大切だよね…。」
いたわりの言葉を受け取りつつも、わだかまりが全て溶けたわけではない。ユエはその皮肉には何も返さなかった。
「…それで聞きたいんだけど」大一は腕組みをする。
「他の星の姫様たちと合うのはいつ?」
「三日後に入内前の歓迎パレードがございます。公に初めて会うのはその日ですね。」
「ん、でも今…」
大一は言葉をつぐんだ。見知ったことを迂闊に喋って問題があった時どうなるかわかったもんじゃない。
「『王』が見つかる目処は?」
「まだ何も。」
「なるべく早く見つけて。最短で三日。」
ユエは大一の変わり様に少し驚いた様子。
「それはもちろんでございます。」
「『王』がいないと傷つく人がいるなら…」胸いっぱいに湿った空気を吸い込む。
「代わりの役を受けるよ。」
そう息を巻く。ユエは相変わらずの無表情で、
「ありがとうございます」
と一言だけ言った。