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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
天に一番高い塔
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〈2〉

 宮殿のどこにユエの言う高い塔があっただろうか。大一は時々首を傾げては、外の様子をチラチラと覗いていた。

 これまでの大一がふらついたのはごくごく狭い範囲に限られており、徒歩数分とかからない場所にしか足を運んでいなかった。

 『王』の居住棟と噴水庭園を挟んだ対面の大広間のついた催事場用の建物。その両サイドに三棟ずつ姫たちの居住スペース。王の棟の背面に医療棟、それらの建物群を囲う壁と四隅の監視塔。その他にも後宮殿などあるのだが、大一はちっとも興味がない様子で検索機が働かない。

 ズリズリと変わらぬ足取りのまま、マップのナビゲート通りの場所についた。

「…なんだここ?」

 以前イブが踊りのときに用意した舞台のような、殺風景な空間。ただ明らかに人の手によって作られた場所なのでどんなに察しが悪くても、ここでなにかすることぐらいは思い至る。

 中央部の出っ張りに気がついた。

 どうやらそれがタワーの入り口のようだ。

「これに足をかけ…てぇぇぇ」

「ぇぇぇえ?!」

 足が伸びたのか、見えいる景色が縦に引き伸ばされ脳が上下に激しく揺さぶられている感覚を覚えた。目の前には見たことのない円形の部屋が広がっている。先っきまで外にいたはずだ。

 しかしどうやらここが『タワー』のようだった。

「う…」

 なれない感覚に大一は疲弊する。膝から崩れ落ち、ヨロヨロと床を這うようにして、その部屋の大パノラマガラスに近寄っていった。

 窓の縁に腕を乗っけてそのままうつむく。

「うへぇ…」

 息と一緒に胃からすっぱい臭いが上がってきた。これは歪み酔いという症状らしい。機械だけは正常に動く。

(これは一人で何度も往復してたら死ねるな。)

 こみ上げる不快感の中、グワングワンと揺れが収まらないものの頭だけはしっかりしていたようだ。

 少し高い音がなったと思い、真横を見ると液状の酔い止めが用意されていた。自動化されたマニュアルなのだろう。大一は差し出された機械のアームから、薬の入ったカップを受け取り喉を鳴らして飲み干した。

「っぷあ。」

 まっず。

 妙なトロみと爽やかさを演出するための香料が口いっぱいに広がった。

 少し余裕が出てきたのか周りを見渡せる。なるほど、ここは展望台のようだ。窓には見渡す限りの空と目下に広がる雲。

「えっここ…」

 大一は弧を描く一枚ガラスに張り付く。

 雲海。

 イブが以前連れて行ってくれた空よりももっと上の世界だった。

 天空の冷たい風が雲を凪いでいる。

 風に乱れて尾を引く雲が、じわりと滲むようにして空に溶けていった。

 目を凝らすと遠くの方で、影の粒が天から地へ、地から天へと列になって流れている。どうやらあそこの根本には渡星船のターミナルがあるらしい。

「ふぅ…」

 気持ち悪さはいつの間にか収まっていた。薬のおかげだけではないだろう。

「空がお好きですか。」

 外を見つめるすぐ横から声をかけられ体が弾ける。

「あっ、あっ…ああ……………イ、ブ…」

 思ったよりも驚いたのか、平静を取り戻すのに手間取る。

「なんですか、人を化物のように。」

 他の姫よりどこか妖しさを感じさせる彼女の立ち振舞いは、確かにそう思ってもしょうがない。

「チガクテ、ビックリして。」

 イブは、わかっておりますよ、と笑って許してくれている。その赤赤と膨らんだ唇の奥から綺麗に整った歯の先が見えた。

 まだ慌てているとスルリとイブが腕を絡ませてくる。彼女の柔らかな肢体が大一の腕に預けられた。あまりの速さに大一も反応が遅れより固くより固く、硬直するだけだった。

「現王様、緊張してらっしゃる?」

 かろうじてウンウンと首をガクガクすることしかできない。

「ふふ、格好悪い。」

 嬉しそうに悪態をつくイブ。

 彼女は大一を窓から剥がすように後方へ倒れて引っ張った。

 床に体を打つと力を入れたのだが、どこから現れたのか、大きなクッションの上に二人並んで倒れ込んだ。あまりの柔らかさに全身が埋もれてしまう。

「ねぇ、現王様。」

 イブのペタリと吸い付くような呼び声。金縛りにあったかのように、大一は展望台の天井の一点を見つめる。

「こっちをみて…。」

 彼女の羽のような手が頬を撫でて、大一はイブの方に誘われる。

 ようやく二人は見つめ合った。

 潤む翡翠の瞳。余裕のある笑み。寝息のような呼吸。彼女はゆっくり、ゆっくり、頬を撫でてくる。

「…あ……い…」

「『アイシテル』、ですか?」

 くすくす笑われる。

「でも言葉じゃ全然足りないわ…」

 イブの腕に力が込められて引き寄せられた。

 先程よりももっと深く彼女を感じてしまう。イブの好む薄手の布が大一に擦れて、チラリチラリとその下に隠された褐色の肌が見えた。

「この前の貸し、返してくれますよね?」

 真っ赤な舌で唇を舐める。湿った口元が大一を待っているようだった。

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