〈1〉
昼食のあと、あるところで策謀がめぐらされる中、大一は何をしていたかというと、
「ううん…。」
彼もまた頭を悩ませていた。
ドゥニアに聞かれたお礼、ルオン、イブへのお返し、シーラとマリーの仲裁…。五人がようやく揃った途端にやることが増えた。
「何も思いつかず、お辛いのでしたらひとまず無視されてはいかがです?」
ユエはなんて冷たいのだろう。悩んでいるところに丁度ユエが現れたので打ち明けたところ、そのように返された。
またもう一つ懸念していることが。シーラからのお願いは果たせるだろうが…それは他の人から見て彼女に肩入れしてるように見えないだろうか。特に、シーラと険悪なムードになったマリーにそう受け取られて見栄っ張りな彼女を傷つけはしないだろうか。
ドゥニアにはどんなお願いがいいのか。そもそもこの世界にある物などわからない。検索すれば見つかるだろうけど、それは特に自分のほしいものではないだろう。
(強いて言うなら、過去へ帰る方法を教えてもらうことだけど…)
こんな中途半端なところで抜け出すやつなどあるか。すぐに邪念を落とすようにヘッドシェイク。
ルオンやイブが一番喜ぶことはなんだろう。そもそも女の子は何をされると喜ぶんだ?またプレゼントをすればいいのか?
どの悩みも決め手が見当たらなく考えが進まなかった。
「直接訊ねられてはいかがです?」
「えっ、それって。」
ルオンやイブに何をしてほしいか聞くということ。大一は何を想像したのか耳まで赤くしてしまう。
「それぐらいされてもお二人は怒らないでしょうし、むしろ喜んで答えていただけるかと。」
「なんか二人に甘えてるみたいじゃない?」
「妻に甘えてることは悪いのですか?」
ぐうの音も出ない。
現実問題、大一の悩みなどその気になればすぐに解決できる取るに足らないものばかりである。
「必要以上に悩んで時間を無駄にされることこそ、待っている姫君様たちに失礼なのでは?」
「う…ぐ…」
ユエが正しい、頭ではわかっていてもどうしても素直に従えない。それはおそらく、自分で何かを為したいという欲求が芽生えたからなのだろう。大一は自覚をしていないが。
「なんにせよ、普通に過ごされたとしても、前にも申し上げました通り、嫌われることはまずありません。」
ユエはいつもの調子で「好かれることもありませんが。」と付け加えた。
そう。それはそれで寂しい。
嫁いだ相手を好きにならないまま一生を過ごすなんて。
「ちょっと煮詰まったから、外歩いてくるよ。」
軽く言われただけなのに、本人は心底打ちのめされたのか、トボトボと部屋から出ていく。
「お一人になりたいのでしたら、タワーがよろしいかと。案内を入れておきます。」
ユエがわざわざ大一の後を追いかけ、彼のこめかみに触れてマップのインストールを始めた。
何度も繰り返されたこのやり取りもまだまだなれることははない。急に物事がわかるようになるのは悪い意味で少しゾクゾクとする。
「今の、他の人に見られたらまずいんじゃ。」
幸いすぐに作業は終わったが、大一は不安になった。
「そうですね。」
「そうですね、って…。」
なんと軽い返事なのか。
大一は考えることをやめ、「ありがとう」と一言告げてそのタワーへとゆっくり歩いていった。




