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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
サターンリンガベル
71/190

〈7〉

 最近になってようやくお互いの気心が知れてきたと思ったらこれだ。

 マリーは頭を抱えている。『現王様への贈り物』を考えるのは望むところだったが、具体的に『何をしたら喜ぶか』『好物は何か』という話になると、むしろ自分自身が知りたい情報である。

 ドゥニアはすでに期待の眼差しでマリーを見つめている。この表情があまりにも無垢で、マリーはどうしても無下にできない。

「えー…現王様が喜びそうなプレゼントはー…」

 腕をしっかりと組み直す。

(今までしたこと、されたことを思い返せ私。)

 自分に発破をかけながら頭を悩ます。おおよそ姫君には似つかわしくない低いうめき声のような声がマリーから漏れる。固唾をのんで見守っている様子のドゥニア。

 朝にドゥニアが来た時もその場では答えられなかった。思えばここ数時間ずっと悩んでいる。

(大体、現王様は私たちに合わせるばかりでちっともご自分のことを話してくれないし…。)

 姫たちは彼について知らないことが多すぎる。事前情報とも食い違う点が多いのでなおさらわからないことが増えている。

(最初の散歩はそういえば現王様からの提案だったよね…。もしかしたらここにヒントが…。)

 あの時は完全にイブの独壇場だった。ルオンはちょくちょくちょっかいを出していたようだが、あの時期のマリーはまだ無理やり付き合っている状態だったので『王』のことはよく見ていなかった。

(空中散歩が好きなの?それとも散歩好き…贈り物の舞台を用意したかった?)

 マリーはその時の髪留めに触れる。あの日から肌身離さず持ち歩いているのはご存じだろうか。最初に見た時、好みに合わないと感じていたし、他の姫よりもグレードが低いこと自体マリーは気づいていた。

(そうそう、いきなり差別されたと思ったのよ。スルカ姫の蒼の髪飾りや、ザハブパトラ姫の銀のものに比べると、まあピンクの宝石の希少性は高いけど、使用されている量はいまいちだったし。内心結構焦ってたわ、あの時は。何かやらかしたんじゃないかって…。)

 突風にあおられて彼からの贈り物を落とした時、マリーは「しまった。」と一瞬焦ったものの、すぐにフォローをする算段をあの場で考えていた。物自体には愛着がわかなかったからこその冷静さである。

(だけど…そんなことをする暇もなく、あの人は。現王様は駆けていった。)

 マリーの眉間から力が抜ける。あの急降下する彼の姿を今も思い起こしてしまう。あのような危険を冒すのは『平和の象徴』としての自覚が全く足りない証拠でもある。自分の身の大切さを考えないくせに、取るに足らないものは大事にする。この上なくおろかだが、だからこそマリーにとってこの髪留めが大切なものに変わった瞬間だった。

「そう、だから許せない…。」

「な、なにがですか?」

 マリーは声に出して呟いていた。はっとして手元を見ると、いつの間に手に取っていたのか髪留めをギュッと力強く握りしめていた。

「あ、いや、えーと…!」

 マリーは気を取り戻して慌てる。今はそんな場合じゃない。

「げ、現王様の贈り物は…!」

「何か催し物ができるといいですね。」

「おー!」

 マリーが固まる。

 ルオンがここまで自問して黙っていたマリーにかぶせるようにして提案をしたのだ。

「まっ…ス、スルカ姫!」

 こっちが必死に考えてたのに何さらっと!

 何か訴えるような表情をルオンはお決まりの笑顔で流す。

「マリー様、失礼しました。ワタクシもいくつか考えていましたので。」

「なら、先に言ってよ…!」

「マリー様にも何かお考えがあるのかと…」

 悪びれもなく言うが、自分の悩んでたこともこの場で帳消しにしないでもらいたかった。

「…で、何なんです、催し物…って。」

「火星の姫様、『催し物』というのは、大きなお祭りとかそういう…」

「ドゥニア様、その話ではないですよ。」

 ドゥニアはぽかんと止まる。

「ワタクシは常々、現王様はイベントがお好きだと推し量っております。パレードのお出迎えから、散歩からダンスパーティから…。」

 悔しいが、マリーは一理あるとうなずいた。

「幸い、この時期に宮中では大きな催事が行われません。せいぜいお二人が集まられたことぐらいです。ですから、この機にドゥニア様が主体となって現王様をおもてなしされるような催し物をされてはいかがか、と。」

「なるほどぉ!ルオン、ありがとうございます!あたしそれ考えます!」

 ドゥニアは膝を打って喜んだ。

 ニッと白い歯をむき出しにして少し落ち込んだ様子のマリーにもドゥニアが笑いかける。

「火星の姫様も、いっしょに考えてくれてありがとうございます!」

「え、いいの。私は別に……あれ、スルカ姫のことは名前で呼んで私は『火星の姫様』?」

 そう聞かれたとき、ルオンがドゥニアに頬を寄せる。

「ワタクシたちもうお友達ですから。」

 そういわれたドゥニアは少し恥じらいながら、そうです、と頭をかいた。

 マリーにはそれがうらやましいものに感じられる。ルオンはなぜこんなにいとも簡単に相手との距離を縮められるのか。

「あ、あの。」

 話がまとまって解散してしまいそうな中、マリーがドゥニアの肩をつかんだ。

「私のことも『マリー』でいいですから…。」

「うん、これからもよろしく願いします、マリー。」

 今度はマリーが頭をかいた。

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