〈6〉
香炉から薄紫の煙がぽう、と立ち込めて部屋を一層官能的にする。誰が清掃したのか、なめらかなシーツはきれいに整えられており、体を滑らせるとまるで水面のようにシーツが波を打つ。
食後にこのベッドは実に罪深い。あまりの心地よさに、後宮の大ベッドに倒れたドゥニアはうつらうつらとしてきた。
「ちょっ…ちょっと、パウカラニ姫!」
ペチペチと投げ出した足の裏を叩かれてもびくともしない。
「まあ、マリー様。午睡は大事ですよ。」
今朝のドゥニアの呼びかけで、ルオン、マリーの二人が後宮殿に集まった。
イブは私用だそうでパス、シーラはにべもなく拒否した。
「現王様が好きなものを贈る、という話でしょう。準備は早いほうがいいですから早速始めたいんですけど。」
「実際に贈るのはドゥニア様なのですよね?であれば、マリー様、ワタクシ達はアドバイスだけでいいのではないでしょうか。」
ルオンはここに来る前にドゥニアの『謀』を確認しようと彼女にこっそり訪ねたが、蓋を開けてみればなんてことはなかった。ただの恩返しである。いささかの物足りなさを感じつつも、ドゥニアの純真さは見習うべきところがあった。
「主催者が寝落ちする会議なんてないですよ。」
「確かに。議長は静粛に、静粛に、と眠れなさそうですものね。」
ルオンは真面目な顔をして答える。
「スルカ姫、からかってます?」
「いえ、全然。とはいえこのままでもいけませんね。ドゥニア様。」
ポンポンと軽く頭をなでてルオンは優しく声をかけた。
「……っは!ごめんなさい!」
「いいのですよ。」
口元を袖で拭うドゥニア。
「現王様への贈り物になにかいい物がないか、聞きたいんですよね?」
とは言っても正直なところ、マリーはここに来るまでに何も思い浮かばなかった。それでも、今ここにいるのは、義理のためと、あわよくば他の姫からなにか情報を引き出せないかという強かな考えによる。
「うーん、ワタクシなら…」
二人は真剣にルオンの話に耳を傾ける。
「現王様のご就寝の頃を狙いますね。」
「なるほど。」
ドゥニアは筆記具を用いて、手に持ったパッドにぐりぐりと何かを書きつける。
「お休みのところに何を持っていくんですか?」
「それは現王様が部屋に戻られる前に完遂せねばならないです。」
「うんうん。」
「なに、簡単なことですよ。ベッドに半裸で潜り込んで、現王様がお休みになるとき、こう、ガバッと。」
バッとシーツを翻してみせるルオン。
マリーは呆れた。
「それただの夜這いじゃないですか!」
「何を仰るのです、マリー様。これほどあの現王様に効果てきめんの贈り物はございませんよ。」
「部屋のロックはどう解除すれば!」
「真面目に聞かないで!」
「他にはお風呂でばったり鉢合わせて…」
雑であり下心が十割の贈り物である。マリーにはなんの参考にもならない。
「もっとそういうのではなくてですね!」
「ならばマリー様は、何を贈られますか?」
やられた。
ルオンはニコニコとしている。自分に話させるために無茶苦茶な提案を…。




