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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
サターンリンガベル
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〈5〉

 今もなお整理が続く部屋の中を、ドゥニアは思案顔でぐるぐるとさまよっていた。

「恩返しなら何がいいかなあ…。」

 『王』が手伝ってくれたことへのお礼がしたいが、本人はまだ思い浮かばないと言って去ってしまった。

 タイタンにとって地球は親星のような存在なのである。すぐそばの土星の雄大さよりも多大なる支援への感謝の念が勝っている。それなので、現王が手伝いを申し出たときの喜びようは先の通り。

 星の代表としてという思いと王の膝の上の座り心地をもって、ドゥニアはなんとしても感謝の気持ちを示したかった。

「他の姫にお伺いなすったらいかがですか?」

 作業中の女性が手を止めずにドゥニアに言葉を投げる。

「……うん!そうします!」

 ドゥニアは走って自室から出ていった。作業スピードがアップする。

 ドンドンと何度か扉ノックをすると従者がモニターから応答した。

「ドゥニア・パウカラニ様。ザハブパトラ姫に何か御用ですか?」

 金星王室らしい扉の派手な飾りと、どこかの画家に描かせた極楽鳥が眩しい。

「ちょっと聞きたいことがありまして!」

「姫に確認します。」

 モニターが消されてしばらくの時間が経った。

「申し訳ありません、まだお休みのようでして。」

 再びモニターがついたとき、金星の従者は頭を下げた。しかしドゥニアは退かなかった。

「じゃああたしが起こしますので、中に入れてくれませんか?」

「そ、それは。」

 いきなり強引である。

「タイタン式の起床方法があるので、それをすればバッチリですよ。」

 明るく拳を握る様子を見て、それが物騒なことの印象を拭い去れない。

「姫がお目覚めになられましたら必ず取り次ぎますので何卒。」

「うーん、でもばっちりなんですよ?」

 ドゥニアがぶんぶん腕を振り回す。やはり危険である。

「申し訳ありません。」

 それだけ告げて、従者はモニターを切ってしまった。

「ええー。」

 ドゥニアは不満げである。だが、このままにするのも仕方ないのでドゥニアは次の部屋へと向かった。

「今は祈りの時間ですので、お引き取りください。」

 シーラの部屋は交渉の余地なくさっさと追い返された。

「次、次。」

 今朝も会ったルオンの部屋。彼女なら大丈夫だろうと思っていた矢先、

「まあ、ドゥニア様。ごめんなさい、今、室内の圧力を変えたばかりでスーツを着ていないのです。」

「大丈夫ですよ!あたし丈夫ですから!」

 ドゥニアはどんと胸を張る。たしかにタイタン人はガッチリしているので外圧にも強いだろう。だが問題はそこではないようだ。

「いえ、今扉を開けてしまいますと、部屋の圧力が変わってワタクシたちが膨らんでしまいますので。」

「ああー。」

 三連敗を喫して流石に悲しむドゥニア。

「お話でしたらモニター越しでよければお相手いたしますよ?」

 ドア近くの壁から腰掛けスペースが出てくる。

「これは内緒の話なので、廊下ではできないです…。」

「まあ、なにかハカリゴトを?」

 これは意外、といった表情のルオン。

「うん、極秘で重要なことなんです。」

「そう言われると、お手伝いしたい気もしますね…。せめて何絡みかだけでもお伺いしても?」

 ドゥニアはあたりに人通りがないことをキョロキョロと確認する。そしてモニターに向かって耳打ちをするようにボソボソと伝えた。

「現王様の。」

 ルオンはうなずく。

「かしこまりましたわ。ドゥニア様、それはランチのあとでもよろしいですか?」

 ドゥニアも黙ってコクコクとうなずいた。

「ではランチのあと、後宮殿でお待ちくださいませ。そこなら人も入られません。」

 ドゥニアはお礼を言い、意気揚々と次の姫君のもとへ向かっていった。

 ドンドン。

 相変わらずのノックである。ちなみに姫たちの扉はノックせずとも、モニターに向って認証を受けるだけてつないでもらえる。

「パウカラニ姫、どうしました?」

 思わず扉を開けて外を確認しに来たマリー。朝から運動をしていたのか軽装である。

 ドゥニアは神妙な面持ちで話した。

「少々内々の儀で…」

 昨日見た彼女の様子からは想像できない姿に、マリーも何事かあったのかとドゥニアを部屋に通した。

「それでお話というのは…。」

 隙間なく扉を閉じたことを確認し、人払いをしたマリーはつばを飲み込んでドゥニアに訊ねる。

「うん、他でもありません。聞かなくちゃいけないことがあるのです。」

 ドゥニアも腕を組んで顔をしかめている。

 マリーはその姿を見守った。

「現王様の好きなものについて。」

「なるほど……っん?好きなもの?」

 深くうなずいてドゥニアが応える。

「そ、それは…何か大事なことに関係して…?」

 女性関係だろうか、だがあの現王様に限ってそれについてまず考えられない。

「お礼がしたいんです。」

「贈り物の話がしたかったの?!」

「うん。」

 ドッと体が崩れる。

「パ、パウカラニ姫はつまり、お礼のプレゼントが何がいいか私に聞きに来たということですか?」

「…!っそうです!そうそう!火星の姫様はなにかご存知ですか!?」

 一転して明るくなるドゥニア。マリーはガクリと肩を落とす。無駄に緊張してしまった。なぜあんな顔をしてたの、もっと一大事かと思ったじゃない。

 あとからわかった話だがルオンに『謀』などと言われ、なんとなく難しい雰囲気をだしたかっただけだそう。

「現王様へのプレゼント…ねえ。」

 本来ならこういうことは他の相手を出し抜く恰好の機会だと思うのだけど。ドゥニアにはそういう発想がないようである。

「現王様のお好きなものは――」

 話し出してからマリーが固まる。

「えっと…」

(あれ?現王様の好きなもの?女の子…は違ったし耐性ないし、お金…も関係なさそう。地位?まるで違う。ダンス…は私と同じ初心者。)

「火星の姫様…もしかして、ご存知ありませんか?」

 ギクリ。

 そんなはずはない、ここまで一緒に過ごして来て、一つぐらいはわかっているはず。マリーはこれまでの出来事を思い起こしてみる。

(何もしらない…。)

 マリーはもう一度肩を落とした。

 嫁ぐ相手の好みすら知らないなんて…。

「えと…。」

 ドゥニアも困惑気味である。

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