〈2〉
タイタン人はよく働く。列をなして矢継ぎ早にドゥニアの部屋へ荷物を運び込んでいる。この作業スピードで、搬送が終わらないとなると、荷物の量が尋常ではないほどなのだろう。
周りがせっせと働くもので大一もそれに合わせて動く他なかった。
「はぁ…はぁ…」
部屋と搬入口を何巡したぐらいからか息があがってきた。それに引き換えタイタン人たちはこともなげにペースを落とさぬまま作業を続けている。
「現王様、これを先に持ってってください!」
ヨロヨロと手を上げているところに荷物が投げ込まれる。
勢いもあって一層ずしりと体に響く。だが、大一は根をあげなかった。申し出た意地もあるし、タイタン人から受けた多大なる期待は裏切られない。
部屋へと持っていくと指示役の人が荷物に書かれた番号をチェックし、どのあたりに運ぶのかを伝えてくる。
室内も今は荷解き作業が行われていて彼女たちの邪魔にならないように動く。姫の部屋をいじるのだから当然女性たちが行うそうだ。
「へへ、あんまり見ないでくださいね。」
ニコニコとドゥニアが大一の脇を通る。
姫の部屋というのはこんなに広いのだろうか。タイタン人が小さいから余計そう思えるのか、それともまだ大きな家具が設置されていないからか…いずれにせよ、自分が利用している部屋よりも大きな印象である。ドゥニアは持っている荷物を窓側の壁においてさっさと搬入口へ向かっていった。運ぶ仕事をやりたいそうだ。
大一も乾いたツバを飲み込んで、荷物を取りに戻っていく。カツカツと廊下を踏みしめていくが、すぐにタイタン人たちのダカダカという足音にかき消される。
「ごきげんよう、現王様。」
フワリと甘い香りが漂ってきた。
「あ、おはよう、ルオン。」
大一は足を止める。後ろを歩いていた作業員が少しつっかえた。
「すっすみません。」
彼らはにこやかに手を降って通り過ぎていった。
「朝早くからいかがされましたか?」
ルオンはもう今日のドレスに着替えている。香り立つなめらかな質の生地。彼女はどちらかというと薄手のものを好むようだ。
「……ふふ、お気に召しまして?」
じっと見つめる大一にルオンが首を傾げて聞いてくる。
「あ、いや…」
赤くなって答える。おそらく働いているせいではある。
「ドゥニアの部屋がまだ準備できてなかったらしいから、それの手伝いで。」
「まあ。」
ルオンが見回すとぞろぞろと荷物を運ぶタイタン人が廊下を行き交っている。
「運搬にホバーカーゴなどを使えばいいのでは?」
「それは俺も言ったんだけど、このほうが早いって。」
「ですが昨日からかけて終わってないのでは。」
「それも思ったんだけど。」
「ふふ。」
ルオンが笑った。
「…現王様、少しお疲れですか?」
大一は少し苦い顔をする。自分から言い出して勝手に去るなんてズルい。
「大丈夫大丈夫、荷物運びぐらいなんとかなるよ。」
パンパンと力こぶ叩いてみせるが明らかな空元気である。
「おはようございます。水星のお姫様!」
ズンズンと荷物を持ってドゥニアが現れる。
「おはようございます、ドゥニア様。少しここを通りがかったもので。」
「へへ、今、現王様に荷解きを手伝ってもらってるんです。」
元気よくドゥニアが語った。
「そのようですね。」とルオンも笑って返す。
「現王様、荷物はもうちょっとです。よろしくお願いします!」
ペコリと頭を下げてドゥニアは部屋へと戻った。
「じゃあ俺もまだ仕事があるから、また。」
「ええ、ですが現王様。」
「?」
「お疲れでしたら、体にあの、外骨格でもつけて作業をされるのがよろしいかと。」
なるほど。これには気づかなかった。
「でもみんなは道具に頼らずテキパキ働いてるのに、俺だけ機械を使うのは…。」
「ダンスではご利用になられたではないですか。格好つけても格好良くはなかなかなりませんよ。」
ルオンの言うことは正しい。ルオンと面を向かって返す。
「もう少しだけ自分の力でやりたいんだ…。」
今日は意地の方が勝った。
 




