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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
サターンリンガベル
65/190

〈1〉

 今日は思ったよりも早く目覚めた。もう何度目になるだろう、この世界の朝日。大一はベッドから起き上がると、そそくさと朝の支度を始めた。

(着替えも食事ももう一人でできるよな。)

 大一はフルフルと顔を振った。これは高校生が考えるようなことではない。

 まずは洗面と歯磨き。ベッド後ろの自動引き出しから、ウォッシュメットと呼ばれる顔面のトータルケア用品取り出して頭にかぶる。ボウル状になっていて、側面のくぼみに洗顔料を薄めた液体のカートリッジを取り付けると、マスクの内側でそれのミストが発生する。顔面の一通りの汚れが落ちた後に、口を開いて待つと専用のブラシが出てきて歯を一本一本勝手に磨き始める。もちろん、歯の隙間の掃除も完璧である。最後に少ししっとりとした髪を整えて終了。

 洗顔が終わり、今度はクローゼットに体を入れるとその日の服を自動で選んでくれる。気にくわなければ微調整も可能だが、大一は当然ファッションに明るくないので完全にお任せである。

 朝食用チューブを引きずり出し、今日の液状料理が充填されるのを待つ。タンクの準備が整っていればチューブは自動的に下りてくるのだが、今朝は少し早いのでまだ整ってはいない。待っている間、カーテンを開けて窓から中庭を覗き込む。太陽の光が目に刺さる。大一は大きく伸びをした。

 ポンポンと軽く柔らかい音が背後でする。食事の準備ができた合図だ。

 大一はベッドへと近寄りチューブを口にくわえて料理が流れてくるのを待つ。

(ほとんど餌やりだよなあ、これ…。)

 ぼんやりとそんなことを考えて吸い付いた。

 ユエ達も給仕も誰もまだ部屋には来ないが廊下には人の気配がするので、おそらく朝の支度に入っているのだろう。だが具体的に何をやっているのか、大一は把握していない。

 大一は部屋からそっと出てみた。堂々と出たところで誰にも咎められることはないだろうが。

 廊下を歩いているところに前から誰がやって来ても、すれ違いざまに会釈をされるだけである。

(シーラのいった通り敬意が少ないってこういうところなのかな。)

 だが、会う人会う人に「ごきげんよう、ごきげんよう」と声をかけられてもかなわない。今の状態ぐらいが大一にはちょうど良く感じられる。

 廊下の端の方が何やら騒がしい。

 こんな朝早くからなにかあったのか。大一はその方へ野次馬をした。

 近づいてみると、何かが起こったわけではない。このあたりだけ人々がせわしなく行き交い、あれやこれやと物を運んで作業をしているようだった。

「あ、おはようございます!現王様。」

 ドゥニア・パウカラニ。騒ぎの真ん中のあたりから『王』の姿を見つけて、すぐに手を振って挨拶をしてきた。

「おはよう、ドゥニア。これはどうしたの?」

 ドゥニアに似て低い身長の人々がせっせと荷物を運んでいる。

「ごめんなさい、うるさくて。あたしのとこ、昨日荷ほどき終わらなくて。」

 そう恥じらいながら答えるドゥニアも自ら荷物をもって部屋へと運ぼうとしている。理由はわかったが、大一は気になった。

「搬送用のキャビンとかドローンとかを使ってもいいんじゃないかな?なんなら俺からユエとかにお願いするけど。」

 手作業で大人数は効率がどうにも悪いだろう。

「大丈夫ですよ!こんなのすぐですから!」

 すぐじゃないから今日も朝から荷解きをしていたのではないだろうか。

 だが、明るき返すドゥニアにはそんな冷たいことは言えなかった。

「あ、現王様また後で!…はいはーい、失礼しますよ、後ろ通りますよ!」

 ドゥニアが前でワイワイとつっかえる人たちに声をかけながら部屋へと入っていった。

 大一はそばを歩いていたタイタンの運搬作業員に腰を曲げて話しかけた。

「荷物はあとどれぐらいなんですか?」

 その人は会話が苦手なのか、両腕をグインと伸ばして身振りで量を伝えようとした。多いことだけは伝わる。

「それなら俺も手伝いますよ。」

 大一はそういって列に混じろうとした。

 業者さんは慌てて大一のズボンを引く。ただそれだけなのに足を払われたような勢いで前へずっこけた。

「ああっ!」

 業者さんも驚く。

「んだっ!」

 大一は地面に全身を強く打った。乾いた音がなったがタイタンの人々の会話でかき消された。

(ドゥニアにみられなくてよかった…。)

 あまりにも気にされなくて恥ずかしい。すると、列をなしている数名が大一の方に気が付いた。

「現王様!いかがされましたかっ!」

 声量が見かけによらずでかい。

 それが部屋の中まで聞こえたらしく、わらわらと人々が叫び声の元へ集まってくる。

「現王様?!」

 ドゥニアもその中に混ざっている。

 視線が一斉に集まって、気にされないよりも恥ずかしい思いをしている。大一を引っ張った業者さんもオロオロとうろたえている。

「あ、いや、せっかくだから俺にも手伝えることがないかなと思って。」

 倒れながら言うことではないが、なぜこけているかは話したくない。

「………」

 あたりの喧騒が一斉に静まり返る。遠くの噴水の音すら聞こえそうなほどである。何か失態をしたか…?大一は焦った。

「現王様が我々の援助を!」

 オオッ!群衆のどよめき。一斉に割れたように歓喜の声が沸き上がった。

「ぜっ!ぜひとも!お願いします!」

 ドゥニアは駆け寄ってきて大一の手を取った。その濃い栗色の瞳には強い期待がこもっているのを大一は察してしまった。

 握った手をさらに強く、両手でキューッと締めてくる。胸いっぱいに息を吸い込んで嬉しそうにまぶたを閉じて笑った。

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