〈5〉
寝室につくと、シーラは今日まとっていた長いドレスからの着替えを侍女に手伝わせた。
カリストの自宅を模した不要なものは置いていない整然とした部屋。ただし他の姫よりも空間が狭くなっている。それは、今いるところともう一つ、礼拝するための部屋が仕切りで区切られているためである。
礼拝堂を意味する文字が掘られた、銀のプレートが扉のちょうど中央上、目線の高さに打ち付けられている。
「いかがでしたか。」
従者の一人が腕を広げて直立するシーラの背に語りかける。
「現王様ですか…。」
ふぅ、とひと呼吸おいてシーラは初顔合わせの印象を語った。
「私が来る一ヶ月の間に、相当あの方の威厳は損なわれていたようです。」
その整った眉に力がはいってしかめ面になる。
「ふしだらなところはあるとはいえ、そこは私の手によってお導きすれば問題ないのです。ですがその周り。」
上げていた手が自然と拳を握る。
「何という不敬でしょうか。候補者がだらしないのはまあ、見方を変えれば私の有利に繋がりますが、あの腑抜けた護衛たちは。それを普通のことと受けとる現王様も危ういですね。」
「心中お察し致します。」
従者はかしこまる。
「人々の上に立つ者として義務を果たさなければなりません。それをお教えしなくては。」
シーラはきりりと窓の先を睨めつけた。
「では、プログラムを繰り上げるおつもりですか?」
横から従者が顔を覗かせる。シーラは首を縦には振らなかった。
「まだです。少し様子をうかがいます。それに現王様は、まだ誰とも枕を共にしたことがないともおっしゃっていました。」
従者たちが驚いて顔を見合わせる。普通ならばそんな言葉は信用ならないが、部屋の端から今日の現王の振る舞いを見ているとあながち嘘とは言い切れない。
シーラは大きな身体の全部を包むような、フワリとしたアジンワータの寝間着を着せてもらった。
「あの部屋は準備できて?」
くるりと笑顔で従者たちに振り返る。もちろんでございます、と口を揃えてシーラを礼拝堂へ案内する。
「私の心を癒やしてくれるのは、この星でここだけになるのですね。」
吸い込まれるようにしてシーラは隣の部屋へと消えていった。
従者たちは扉の閉まる音を聞き届ける。