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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
木星ビリーバー
63/190

〈4〉

 主天至上主義というか、その教義において男女の肉体的な交わりは、心の交わりを経てなせるものらしい。

 教えを正しく守るシーラにとって、『王』が他の姫と交わり続ける中、自分だけ触れられないのは、正室争いで非常に不利に働く。また、心の交わりを経ない体の付き合いは不浄なものとしてシーラの目に映ってしまうようだった。

「その、木星正教のルールを守ってほしいということ、なんだね?」

「その通りでございます。現王様にはわかっていただけると思っていました。」

 シーラはそう言って胸をなでおろす仕草をする。事前に姫に伝えられている『王』の情報からは、無茶な要求を飲んでくれるような印象はないはずだが…。

「正直に話すと、実はまだ一度もみんなを部屋に招いたことはないんだよ。」

「えっ?」

 シーラにとって意外な事実が判明し、驚いたようだ。

「ということはつまり…」

「誰ともそういったことは。」

 手をつなぐことすらまだまだ難しいことだ。

「すばらしい!」

 喜んで椅子から立ち上がりパンパンと手を叩いた。

「現王様の信仰にもそういった穢を避けるものがあるのですね。どうぞこれからも続けてください。健全な心を育まれますよう。」

 対して大一はあまり喜ばなかった。

「一つ、いい?」

「はい、なんでしょう。」

 満面の笑みでシーラが控える。

「もしも、俺がみんなの伝え聞いてたとおり、女の子にだらしない男だったらどう説得するつもりだったの?」

「?」

 大一は少し責めるような言い方をしている。

 つまり今回の彼女の申し出、大一はこう解釈した。

(シーラとは一緒に夜を過ごせないから、他の人とも過ごせなくする。こんなこと頼むのは自分勝手じゃないか?)

 全員に同じぐらいのハンデを背負わせることと、大一が誰も選ばないのは違う。

「噂通りだったら多分いきなり言われても、それを達成できそうにないし…それにそうやってお願いを受け入れないことで、シーラを裏切り続けることになるんだけど。」

 それが大一の一番避けたいことだった。せっかく宇宙から来たのに悲しい思いはさせたくない。大一にはいつからかそんな使命感が芽生え始めていた。

「意地悪な言い方してごめん。シーラが『王』を大切にしたいっていうのはよく伝わった。シーラのお願いも叶えてみせる。ただそれは――」

「木星正教の教えに従うからではない、と。」

 そうだと大一は返した。

「これからみんなで過ごしていくんだから。少しでも楽しくさせたい。」

 大一は椅子から起き上がり、ごく自然にシーラに手を差し伸べた。

「そろそろ冷えるからもう帰ろう。ここまで付き合ってくれてありがとう。」

 付き合わせたのはシーラの方だが。そんなことは今の大一にはどうでもいいことである。

 水しぶきが夜風を一層冷たいものにする。お互い少し水分で髪から靴までしっとりとしていた。

 シーラは大一の手を取らずに立ち上がって話す。

「私は椅子を片付けますので、先にお休みください。」

「あ、なら、俺も一緒に。」

「いえ、お構いなく。」

 シーラは首を横に振って断った。

 そう言われては、大一も強引にはいけない。おやすみ。と一言告げて一人で自室に戻っていった。

「『みんなで』?『楽しく』?…正妻は一人なのですよ、現王様…。」

 立ち去る彼の背に、届くかわからない声でシーラがつぶやいた。

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