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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
カリストとタイタンの王女
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〈6〉

「本当にあれでよかったのかあ…?」

 大一は自室のベッドの上で先の自分の発言を反芻していた。喧嘩をはじめそうな二人の間を取り持つつもりだったが、結果シーラが悪者みたいになってしまったことを悔やんでいる。

「十分な対応だったかと存じます。」

 ユエが夕食前のティーセットを用意しながら気を遣ってくる。カップはツルンとしていて保温性が高いものだ。持ち手がないのはなんでだろうか。給茶機が備え付けられている移動式カーゴ、ちょうど機内食カートのような姿をしている。ただ車輪はついていないで、この世界でよくあるホバー移動型。

 カップの縁が当たる音一つさせず、お茶の用意をしているユエ。静かに作業をするユエに対してシーラに言われて気になったことを聞いてみた。

「シーラが、宮殿に仕えている人に敬意が足りないのではないか、って言ってたけど…それは俺が偽物だから?」

 ユエは手を止めずに答える。

「あまりその『偽物』という言葉は口外されないように。事実を知っているのは私たちの部署のものだけです。」

「質問の答えにはなってないけど…。」

 そもそもユエのいう部署というものの全容がつかめていない。ユエの上司にカサネギさんがいることぐらいしか伝わっておらず、護衛の者たちもその部署の所属ではないようだ。学習機能ドライブがどんなにアクセスを試みても、ユエ達のことは実際に目で見て聞いたそれ以外、全くわからない。

「敬意が足りないっていうより、俺の身が完全に守られてないのは薄々感じてるんだよ。この世界の最重要人物なんでしょ?」

「生身の人間の護衛などあてにされない方がよろしいですよ。」

 ベッドの横にユエの用意したティーセットが置かれる。大一は一言、ありがとう、と言ってそれを受け取った。

「そうはいっても空で散歩した時はイブの護衛たちがしっかり守ってくれてたじゃんか。」

「そうですね。」

 短くてそっけない返事をされる。過保護になれとは命令しないけれど、言ってることとやっていることがどうも一致していない。『王』が宇宙の平和を守るほど大事なのであれば、せめてユエの『部署』ぐらいは率先して身を守ってくれるのが自然だし筋なのではないだろうか。

「御身に迫る危険など、ついぞ起こりませんでしたので。」

 側に控えて大一の問いに答えていく。

「結局のところ『王』の護衛はほぼ形だけなのです。だからあなたに想定外の動きをされると対応が遅れてしまう。」

「たとえ何かが起こっても代わりはいくらでも過去からとってこれるし、あまり気にしていない…と。」

 大一は不満をあらわにした。ユエが手を止めて大一の方に向き直る。相変わらずの仏頂面だが、こういう時には大事なことをいつも言ってくる。彼女と過ごしてきた中で何となく大一にはそれがわかってきた。

「時間遡行は禁忌です。おいそれとはできません。それに…」パチリと瞬く。

「私は現王様がいいです。」

 一瞬時が止まった。大一は困惑する。

「えっと…それは本物のこと?」

「あまり『本物』などとおっしゃられないように。」

 ユエはお茶を継ぎ足して、おかわりを勧めた。

「ありがとう…。」

 あまり得心がいかないが、いや腑に落ちない点しかないけれども、どうもユエ個人の考えはあるらしいことはうかがえた。

 ユエは現王の世話役であり、大一のフォローを行う役割を担っている。今までも多少の認識のずれはあるとはいえ、陰ながら助けられていることは大一にもわかっていた。だがまだ彼女たちには素直に感謝できない。

「…俺は、みんなのことを幸せにするって伝えてるんだ。」

「はい。」

 会話が落ち着き、再び室内に静寂が訪れた時、大一が話し始めた。

「ユエが前に言っていた公平さの話だけどさ…あれはみんなに同じ量だけ同じことをすることじゃないんだよな。」

「そうです。欲の深さは人によって違います。」

「欲の深さって…」ポリポリとユエに整えてもらっている人工頭髪をかく。

「今日、みんなを喜ばせるってすごく難しいことだと思った。」

「対立する二者の仲立ちをするのは、まだ荷が重いようですね。」

 黙って大一はうなずく。

「いっそ、愛するのは一人だけに絞ったほうが楽ですが…水星姫か金星姫がお勧めです。」

 ルオンとイブは比較的大一に対して好意を寄せてくれている。考えていることまではわからないが、大一のやることに対して肯定的に感じてくれていると思う。

「一人に絞るつもりはないし、そもそも正室決めはご法度でしょ?」

「はい、その通りです。」

 正妻に決めなければ何をしてもいいのか。それこそ彼女たちに失礼だ。俺はそこまで腑抜けているつもりはない。大一はぐっと体に力を入れる。

「二人と言わず五人全員の間を取り持つのはどうしたらいい?」

 『みんなの幸せ』が何なのかまだはっきりわかってはいないが、少なくとも誰か一人でも悲しい思いをしてしまえばその目標は達成されない。今日のようなことが起こった時の解決への糸口が欲しい。大一はユエにすがった。

「少しずつでいいと思います。一緒に悩んでみるのが一番かと。」

 それがユエの答えだった。

 いつも煙に巻くようなことばかりいわれる。大一は唸りながらもユエが助言をくれたことに感謝をした。

「現王様。」

 退室際にユエが大一に声をかける。

「護衛はあてにせずに。ただ私がいますので。」

 言葉足らずのユエの発言。ぼんやりと彼女がこの時間に述べた言葉を思い浮かべて夕食までの時間を過ごした。カップの紅茶はまだ熱かった。

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