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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
カリストとタイタンの王女
58/190

〈5〉

 まず始めにカリストというのは。

 タイタンのような偶然は訪れず、分厚い氷の殻が星全体を覆っている。当然待機もない温度も低い表面では生命維持装置をつけての作業はできるが、そもそも他の植物、生き物が存在できないので生活することは困難を極める。

 そんな中で発見した氷の下の空間。有機物の存在する水溜りだった。テラフォーミング一号民たちは必死の思いで、「天雷」とよばれるボーリングマシンで殻を穿った。

 しばらくして極寒の水中作業をしながら生活拠点を築き上げる。そこを段々と拡張していったのが今のカリストのコロニー。

「暖房設備はかかせません。」

 大国ほどの広さを持つ居住区を完全に安定可動させるエネルギーとは。すなわち水星の太陽光、金星の天然ガス、火星の鉱山資源、土星の液体メタン…。

「じゃあ他の星に支えてもらってるってことだ。」

 公の場から離れたせいかいつの間にか油断して普通の口調の大一。だがシーラは違うと首を振った。

「当たらずとも遠からずです。」

 シーラはその大きな体躯をしっかり伸ばし手立ち上がり、例の馬蹄型多人数用ソファに座る大一とその他の姫を見下ろした。

「他の星が我々に協力することにより友好関係が保てているのです。」

「ん?」

 支えてもらっている、ということとはどこか違うのか。

「木星にはこれらの資源があります。」

 手のひらにホログラムのタッチパッドを起動させる。目に映るそれは驚くべき量の財宝、主にダイアモンド。

「例えばそちらの三方が身に付けている、小さな髪飾りも、木星の宝石を利用されているものです。」

 ピシピシとそれぞれを指さしていく。

「資源提供の代わりに、我々からは余暇を彩るの贈り物が。報奨と言っても差し支え有りません。」

 シーラのあんまりな物言いに場の空気がまずくなっていることを、大一は己の経験から察する。

「えと、シーラ、そんな風に言わなくても。」

 シーラは臆面もなく大一だけに向かって返す。

「いえ、これははっきりとさせねばならないことです。ここについてから私はいろいろと見て回りましたが、どうも全体として現王様に対する敬意というのが希薄だと見受けられます。」

「そんなことない!」

 ドゥニアが大一に飛びついて、シーラに対して激しく抗議する。メリッと締め付けられたが少しだけ心強かった。

「我々、木星の住民は、主天とともに生きてまいりました。あの雄大な星があるからこそ、この星系の均衡が保たれるのだと確信しております。」

 パチリと目を閉じて木星正教風の祈りの仕草をする。左の指を下から右手で包み、右の指を左手で上から包む。循環を意味し、木星への帰順を表すそうだ。

「この宮中において主天たるは現王様にほかなりません。みだりに抱きつくなど現王様を辱めるに等しい。」

「あたしはそんなつもりないです!」

 より一層ドゥニアの腕に力がこもる。思わずギャッと悲鳴を上げるところだったが、今言う言葉はそれではない。大一はドゥニアに続いた。

「シーラが俺を敬ってくれるのは嬉しいけど、俺はこうやって交流を通してみんなのことを知れればそれでいいと思ってるんだよ。」

 パッとドゥニアの表情が明るくなった。嬉しい!と一言言ってさらにさらに強くしめつけられる。

「んげっ」

 潰れたカエルのような声がでた。その瞬間端にいるルオンが笑ったのを大一は聞き逃さなかった。

「現王様は周りの者に合わせてくださる、ということですね?かしこまりました。ですが気高くあられてください。『王』たる威厳は貶めてはなりません。」

 シーラも本当に心配していってくれているようだった。彼女の主張もわかる。大一もなるべく努力はしているが流れる庶民の血は消せないのだ。

「それに…」

 今度は王の両隣を新人二人に譲っているマリーたちを一瞥する。

「あなたがたも『王』の正室を目指されるのなら、身につけるものに気を使うべきです。特に火星の姫。」

 呼応するようにマリーがキッと顔を向ける。

「火星の台所事情は重々承知しておりますが、グレードの低いものをその価値をわからずこれみよがしに着けているのは、宮中の品位を疑われます。」

「はっ?」

 コスモスの髪留め。大一からの贈り物。

(グ、グレードなんてわからないって…)

 カタログには何も書いてなかった。審美眼など持ち合わせていない大一に良し悪しを見抜くのはどだい無理な話である。

 図らずもマリーに恥をかかせてしまった。ここは自分が恥をかぶらなくては。

「いや、それは俺の目利きが…」

「事情を知らないのだから今回だけは許しましょう。」

 大一が言うよりも早くマリーが目を閉じて返す。

「あなたに許される覚えはないです。事情というのは?それが現王様からの賜りものだとかでしょうか?」

「そうです。」

 きっぱりと勝ち誇ったようにマリーは言う。だがシーラは折れなかった。

「ならばなおさら隠すべきです。」

 意外な返事にマリーは目を見張る。

「現王様の恩寵をアピールするなど、浅ましい。あなたがモノの価値のわからないのは構いませんが、そのようなもので浮かれるなど考えられませんね。」

「!…そんなもの?!」

「はい。現王様があなたにわざわざ位の低いものを送った意味がわかりませんか?」

 悪い意味なんてない、本当に知らなかったんだ。大一はいつの間にか立ち上がっていた。全員の視線が大一に移る。

(あれ、なんていえばいいんだ?)

 シーラは王の品位を落としたくなくて大一をかばう形でマリーを攻撃している。マリーは大一からもらった髪留めを馬鹿にされて怒っているはず。

(マリーを守るのが当然だけど、それは逆にシーラだけが敵になってしまうんじゃないか?)

 結果。

「い、いやあ…俺は宝石に関して全然わからないからさ…マリーに似合うと思ったものを贈ったんだよね。」

 ヘラヘラと締まりのない発言となった。

「現王様、私は、そういうつもりで言ったのでは…」

 シーラが悲しそうな顔をする。これではシーラが『王』に恥をかかせた形になってしまった。

「申し訳ありません…。」

 深々と、体がふた周りも小さく見えるような謝罪をシーラはした。

 やがて部屋の準備が整い解散となる。

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