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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
カリストとタイタンの王女
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〈3〉

 前後左右を厳重な警護に挟まれて一際背の高い色白の女性がやってきた。カリストの姫。どこか悩まし気な彼女の瞳に玉座についた大一は捉えられてしまう。

 女性は玉座の前に立つと静かにかしずく。

「現王様、ご機嫌麗しく。」

 一言、それだけなのにその場にいる殆どの人が背をきちっと正した。前へ進むとき、列に一歩戻るとき、所作動作に無駄がなく、まるで美しさだけを残したようだった。

 この空気の中においてなおも自分らしさを保っている一団があとに続いてやってくる。

「こちらでございます、姫様、こちらです!」

「はーい!」

「ほら、ちゃんと教わった通りに。」

「大丈夫です!」

 ワイワイと賑やかに小柄な人々がやってきた。

「タイタンの姫君ご一行です。」

 大一の後ろに控えていたユエが、そのことを小さく伝える。

「あっ。」

 左右に並ぶ来賓に気取られたのか、その中心の少女は途中で躓いてしまった。

 大一は思うよりも早く彼女へと駆ける。だがそれよりもさらに早く、カリストの姫がタイタンの姫を支えていた。

「あ、ありがとうございます!」

 身を起こした小柄なタイタンの姫が深々とお礼をする。

「お構いなく。今は現王様の御前ですので。そしてあまねく全てを支えるのも主天の務め。」

「なるほど、ありがとうございます!」

 タイタンの姫はわかったのかわからない返事をした。

 玉座前に姫を支えようと飛び出した大一が残される。また入内の儀のうちに玉座を離れた。伸ばした手は空を掻いてダラリと落とされる。

 次は二人の自己紹介の番だが…。

「え、ええ…。はるばるよくぞ参られました。両姫君。此度の長き渡航は…」

 一瞬広間がざわつく。あ、しまったこれ、二人の挨拶のあとだ。しかし話し始めてしまってスピーチのやめどころがわからない。労をねぎらう話から今後、どのように生活してもらうか、そして最後の挨拶までペラペラと言い切ってしまう。なんとかしなくては…。

「で、お、ヨは地球の現王です。」

 会場全体がキョトンとする。

「お二人のお名前は…?」

 苦肉の策である。進行をめちゃくちゃにして無理やり自己紹介まで戻す。大一の横目に口元を隠すルオンやイブの姿が映った。

「…私は木星正教星祖の娘、イニ・シーラと申します。教会より賜った名はペルンロード。現王様とようやくお会いできて光栄でございます。ぜひとも我々の正教の教えをお伝えしたく。」

 長い息を吐きながら唱えるように話してきた。体を起こすとイブよりもさらに背が高く、大一の頭一個半ほどの差がある。木星は水星に似ていて永久凍土の中に居住地域を作っている

。ただ太陽エネルギーが届きにくいところにあるので、ライフラインの殆どは重機械によって整備されており、カリストは機械じかけの星とも呼ばれる。この緊張感も過酷な環境が育んだものなのだろうか。

 その隣でウズウズとなにやら期待する表情のタイタンの姫。大一が目を合わせると、彼女はガバリと礼をした。すこし既視感がある。

「現王様!現王様!あたしはドゥニア・パウカラニです!ずっとずっと会いたかったです!」

 小さな体でぴょんぴょんと飛び跳ねて嬉しさを表現するドゥニア。席からわざわざ降りてきた大一にまるで有名人に会った時のような反応を示す。そして――。

 ズシンと重い衝撃を全身に受けた。

「えへへ。」

 興奮しているのか大一の腹に頬ずりをする。

「あれは、かのローズマリー式ではないですか。」

「スルカ姫、なんてこと言ってくれるんですか。」

 そんなやり取りが大一の横から聞こえてきそうである。

 マリーと違うのは、第一にドゥニアの力が想像を遥かに超えて強いことである。抱きつく彼女に触れてみると、筋繊維がぎゅっと詰まっているのか硬くてびくともしない。ギリギリとウエストがどんどん締め付けられていく。

 そしてこれはどうも悪気があって、作戦があって、このような行為に及んでいるわけではないようだった。

「会いたかったあ…。」

 愛おしさと安堵のまじった声を大一に埋もれて出した。

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