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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
姫とランデブー
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(3)

 マリーは首を振る。

「あのような出し物のあとに、お見せできるような踊りなど…とても。」

「例えそれが現王様からのお申し出でも?」

 ルオンは訝しむ。理由があろうがなかろうが、自分の意思など関係なく、王からの願いは受けるしかないはずなのに、なぜ彼女はこのようなことを言えるのか。伏し目がちのマリーの姿は嘘をついている様子でもない。

「………マリー様ご自身、踊りが苦手だからですか?」

 ルオンとイブの見立てではそうである。

「そうです、苦手だからです。」

 目を背けて答えるマリーから、今度は嘘の臭いが沸き立つ。

「現王様はそれでも皆の前で踊っておられますよ。」

「機械の補助付きだからでしょう?」

 どことなく卑屈なマリーの声。初めて出会った時の声をが上ずってもなお、懸命に食らいついた彼女と同じ人物には見えない。

(…もはや勝負を投げる心づもりなのですね。マリー様。)

 原因は何なのかルオンに察することはできない。正室の座を狙う相手が減ることは願ってもないことだ。

「現王様は仰られました。『みんなと踊りたい』と。」

 だがルオンは惑うマリーに助け舟を出す。

「いいですかマリー様。機械があるから踊れるのではなく、ワタクシたちと踊りたいから機械を使っているのですよ?」

「でも、私の相手ではそれを使わなくたって…」

「…もう!」

 ルオンは自分のスカートの脇の切れ込みに手を突っ込み、そこからズルッとドレインチューブを引き出す。

「御用です!マリー様お腹くくってくださいませ!」

「えっ、ちょ?!」

 勢いに任せて、驚くマリーの腰周りにぐるぐるとチューブを巻き付けてしまった。

 ホールから漏れて流れてきていた音楽は終わっている。最後の曲までのインターバル。ルオンはマリーを引きずってひた走る。

「スルッ!スルカ姫!」

「なんでしょうか!」ルオンは振り返らない。

「姫であるあなたがそんな格好で走っては…はしたないと思われますよ!」

「マリー様だって姫でしょう?」

「わ、私の家はそんな立派な血筋ではなくて政治家の…」

「王族の血筋など詮無きことです!ワタクシ達はみんな等しく、『王の姫』なのですから!」

 明るく楽しそうな声。マリーは黙ってルオンの背中を見つめていた。

 ホールから細く柔らかい最後の演奏曲が聞こえ始める。

「このまま中央まで一気に走り抜けましょう!」

「えっ!?」

 ホールの中心に向かうにつれて、当然踊るカップルは増えていくのに、走り抜けたらどれほど邪魔になることか。そんなことを考える間もなく、ルオンは今はもう珍しい蝶番式の開閉扉をバンバンと突き飛ばして中に入った。入り口付近にいた数名が驚いて珍入者を確認する。

(現王様!)

 流石に大声で呼ぶような真似はしなかったが、宙に浮く大一に向かってあらん限りに手を降った。

 大一は入り口の二人に気づく。

「このまま来なければ私とずっと一緒でしたのに。」

 フンと鼻を鳴らしたがどこか笑みを残してイブが言った。

「さ、現王様、行ってらっしゃいませ。」

 トントンとイブに肩を叩かれ、気合を入れてくれたのを感じた。下へ歩く要領は簡単。前回と同じように体を倒して…。

「あっ!あっ!」

 また斜め落下を始める大一。下にいる数人が驚いて足をとめる。我武者羅さが前ほど無いせいか、落下の恐怖がダイレクトに体に伝わる。その上空気抵抗も少なく落ちる体感スピードが激増。それでも足を止めることをしなかった。

「マッ、マリー!」

 叫び声のような大一の呼びかけ。

「は、はい!」

 応じるマリーも固くなる。

「俺と、踊ってくれませんか!」

 ビンと足を伸ばして彼女の前で急停止。しかし慣性が残って体が前後してしまうせいで弧を描くように空中を行ったり来たりグラグラ滑る大一。

 それをマリーがガシッと抱きついて受け止めた。

「私、靴ないし空にはいけません…それに、黙っていたのですが…踊りもできません。」

 この期に及んでで断るなんて誰もが予想できなかった。だが今日の大一はくじけない。

「俺だってできなかったよ、踊りなんて。大丈夫。絶対、マリーを離さないから。」

「はっ…へ…」

 みるみるうちに髪と同じぐらいに赤くなるマリーの頬。気がついたときにはマリーは大一と固く手を結んでいた。マリーを床から引き上げる。ようやくマリーが大一のもとに来た。

今回は明日(4月29日)も更新します。

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