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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
ようこそ、過去人さん。
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 『平和の象徴』のもとには各国から伴侶となる異性が送られる。この点は明らかに時代に逆行している。つまり地球の王室に各星から権力者の娘、あるいは息子たちが輿入れしてくるわけだ。最初の『王』を決めるときに、現存していた各王室の血を混ぜ一本化するという意味を持たせて始まったそうである。

「そして重要なのがもう一つ。」

 ユエは人差し指をツンと立てた。

「正室となられた姫君の星には各星から代替わりになるまで多大な援助が行われるのです。言ってみればご祝儀として。」

「…ん?」

 大一は少し頭をひねる。

「…ちょっと待って、それは側室の姫の星はお金のために無理やり協力させられるってこと?」

「無理やりとは言い切れません。」

 驚く大一をユエは即座に否定する。

「つまるところまだ星の開発は完了しているわけではないのです。ただ毎回毎回平等に援助をしていては地球が疲弊してしまうので、その代の投資先を定めるための大事な行程なのです。自分の国の者が一番になれば予算が得られる、ことこれに関してはみな同じスタートラインの上に立っているわけですから決定後に争いあうことはありません。」

「それは…」

 なんとなく納得いかなかった。技術躍進は著しいのに結婚相手をまるで物のように、作業のように。無下に扱われることが大一にはたまらなく嫌なことに感じられる。

(結婚とかってそういうんじゃない気がする…。)

「さすがにこの感覚は庶民との差ですね。ですがずっとそのままでは困ります、あなたの協力が必要なのです。」

「それが『地球の王の代理』…。」

「どうしてそうしなければならないのか。これは直接お話しします。」

 一番気になっていたことですよね、とユエが例の無表情で問いかけてくる。確かにその通りだが、先ほどの話を聞いた限りそのような立場の『王』の代理など努めることは立場的にも気分的にも到底無理である。

「『王』は――行方知らずとなりました。2週ほど前に。」

 初めに気づいたのは『王』の側近に当たる今まさに目の前にいる、ユエ。前王が崩御し新たな代を迎えたその月、婚約者に合うための惑星巡行の前日、王は自室から忽然と姿を消してしまった。誰も外出された姿を見たものはなく、何の形跡も残っていなかったため宮中は大騒ぎになる。

 かと思われたが…

「時期が時期です。現王が婚約者に会う前にいなくなったと知られたら平和の象徴たる地球のメンツが立ちません。当局は捜索を続けるともにこの事態を隠し通す方針にしました。」

「外面のためだけに隠蔽するんですか?!」

 当たり前です。とユエ。それほど重いのですシンボルというのは。

 言葉が空を舞ってしまい頭に入らない。彼女の言うことが本当だとすると自分はその「メンツ」のために連れてこられたのだ。地球の王室の威厳を守るための代理を果たせと言われている。

 グラグラと不安定になる大一にユエが手を添えて支える。

「だから…何度も言うようにあなたにはしばらくの間、地球の王の影役を極秘に務めていただきます。」

 ぶくぶくと湧き上がる濁った感情をなんとか抑えつつ大一は問いを投げる。

「…俺じゃなきゃいけない理由は何ですか…」

 ずっと心に引っかかっていたこと。フラれて海岸で泣きわめいてた自分とは全く縁のない世界の話。そんなことのために失ってしまった元の世界の平和な生活。

 ユエは大一をしっかり見据えて答える。

「自然にある全ては…流転するのです。昨日見た魚から空を渡る流れ星まで。つまり…」

 すっとユエは呼吸を整える。

「あなたの遺伝子が、現王の遺伝子と寸分違わず一致するのです。ゆえに、表情の一つ一つ、体つき、声色全てが同じ。こういうのをなんと呼ぶのでしたか…ああ、そうです。『生まれ変わり』と。」

 これまでもそうだったが、そんな話がにわかに信じられるだろうか。だが話によるとここは自分では計り知れない未来の世界、自分の知っている法則は通用しない。

「俺がこの世界の王に似てたから…連れてきた……?」

「似てるのではありません、同じなのです。」

「じゃあ!」大一はユエの手を振りほどいて立ち上がる。

「その流転の法則が同じなら、俺じゃなくても他にもいっぱいいただろうが!」

 ユエは眉一つ上げない。

「確かにそうですがいくつか条件がありました。」

 彼女がすっくと側に詰め寄る。少し感じてはいたがユエは大一よりも背が高い。しかもヒールを履いているので並んで立つと見降ろす形になる。

「一つ」指を突き上げる。「年齢が同じであること。これに関しては過去に降り立つので遺伝子さえ合っていれば問題ありません。二つ、ケガなどの後天的な障害がないこと。元通りの状態はこちらではわかりませんので直しようがないのです。それが決め手となり替え玉だとばれてしまうリスクもあります。そして三つ目。」

 赤の目が大一をとらえて逃がさない。それに合わせて心臓が高鳴り始めた。

「その時代からいなくなっても歴史に影響のない人物であること。」

 ガンと後頭部を強く打たれたような衝撃だった。自分が何かをなせる人物だとは思っていなかった、普通の平凡な人生、恋に悩んで敗れて叫んで喚いてそれでも強くなっていけるようなそんな人生。それを全部否定された。

「…そっちの監督不行届きじゃないか…。」

 それでも大一は踏ん張って声を張る。

「そのしりぬぐいを俺にさせんのかよ!何の関係もない普通の、庶民の高校生を!返せよ!俺はまだあっちの時代で生きてたいんだよ!」

 部屋中に反響してしばらく叫びが鳴りやまない。しかしユエは微動だにしなかった。そして――。

「勘違いされているようですが。」

 ユエは言った。

「あなたはあの日、高波にのまれて死にましたよ。」

「はっ…?」

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