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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
スターダストダンスホール 後
44/190

(5)

 今日は宮殿前広場にイブからの招集があった。いつの間にか広場の中央に八角形のダンスステージが建てられていた。その中央できらびやかなドレスをまとったイブが大一を待ち構えていた。

「ずいぶんな気合の入り用ですね…」

 もはやこれが本番と言っても差し支えないほどの舞台が整えられている。八角のそれぞれに燭台が置かれ、イブが軽くスナップするとひとりでに炎が灯された。

「原始的…」

 マリーの横で大一は黙っているがむしろこのほうが馴染み深い。ルメライトだとか呼ばれるこの世界の光源は至るところにあるので、それの灯台ではもはや大一にとっても珍しくなかった。

「さあとうぞ、現王様はこちらへ」

 イブが手招きをする。舞台の上には二人しか乗ってはいけないようだ。ルオンもマリーも大人しく外側に待機した。

「いかがですか、今日の衣装は。」

 光を乱反射するベールをするりと脱ぐと、白地の眩しいドレスの襟や袖に宝飾が散りばめられているのが顕になった。それに加えて、いつもよりも肌の露出が多い。褐色の肌がドレスで映える。

「もっと見ていただいて構いませんのよ?」

 そういうとロングスカートのスリットからちらりと太ももを晒してきた。

「…っ!」

 光を弾くその肌のあまりの艶めかしさに一瞬めまいがしたのか、大一は慌てて目をキョロキョロと動かす。

「恥ずかしがらずとも良いですのに。」

 ツツツと人差し指で大一の正中線をなぞっていく。外骨格に触れ、彼女は手に用意していたダンスのデータをインストールし始めた。

 同時に頭の中にもそれが反映されていく。

「え、踊れるの…?俺…。」

 初心者では到底難しそうな動き。足のステップ、手の導き。キョトンとするイブ。

「その外骨格がガイドしてくれますし、それに…」

 両手で大一の胸板をやわらかくなでてきた。

「私のことを強く、欲しい、と念じれば自ずと動けますわ。」

 水星では相手と支え合う踊り、金星では相手を求める踊り…。

 イブがウインクをして開始位置につく。大一のクノッヘンBも始まりを感じ取ったのか、自分の立ち位置へと移動させる。

 ドコドンドン、どこからともなく打楽器の音が響く。

「ずるい…」

 昨日、音楽無しで大一と踊ったルオンが静かにつぶやいた。

 どんな技術だろうと考えようとするが今ダンスが始まったばかりだ。踊りのほうが優先されてしまい、検索機が動くことはない。

 指先を動かしまるで引き寄せるような仕草のイブ。腰をくねらせ足を差し出す。

(強く欲しいって気持ち…。)

 外骨格が動く。タカタンと軽い足取りでイブの周りを舞う。首から上にはクノッヘンが通ってないのでイブを見つめたままだ。そのせいで首が時々無理な角度になる。

 足を見せて回りながら大一の側までやってくる。触れることはなく、なおも誘う踊りを続ける。

(取って)

 と言わんばかりの彼女の腕。だがそう簡単に取らない。その指先をかすめるようにして横切っていく。

 次第に激しさを増す二人のダンスの応酬。体を曲げ、手足を這わせ、互いを誘い合う。

 その時急にふっと体が軽くなった。それを待っていたようにイブも汗を拭わぬまま息を整えてもう一度今度は全身で相手に近づく。大一も歩み寄りイブを抱きとめた。イブも腕を大一の背中にクロスする。

 二人は汗水を垂らし肩で呼吸をしてしばらくそのままだった。体に振りまかれた香料が熱を持って大一の鼻を刺激する。彼女をいたわるように大一はイブのわき腹をさすった。

「あっ!」

 我に返る大一。

「…あら、ここまでですね。」

 ハアハアと口で呼吸をして鼻の先でイブが大一と笑う。

「ルオンとはあんなに長い間くっついていたのに…汗でベトベトだからですか?」

 意地悪そうな目つきで責められる。

「違うよ、夢中になりすぎて…」

「なりすぎて…なんですか?」

 恥ずかしくって言い出せない様子の大一をイブは笑った。

「そんなに想っていただけたたのなら今日は結構。当日を楽しみにしていますわ。」

 ダンスの終わりを悟り外にいたルオンとマリーの二人が引き離そうと寄ってきた。

「お二人ともいかがでした?」

 勝者のような笑みを隠せないイブ。腕まで組んで離さなかった。マリーはバツの悪そうな顔をしている。ルオンの講評が始まる。

「現王様が楽しく踊られていたのなら、それで構いませんわ。でもですね、当日お二人のためにこんなに広いスペースを用意するのはできないでしょうね。」

 ルオンの言うとおり、今の踊りはこのステージを目一杯使ったものだった。イブも少し失念していたようだ。少し間を開けてからイブが言葉を返す。

「…でもその口ぶりだと踊りには問題なさそうね?」

 今度はルオンが口を閉じる。

「明日のローズマリーが最後だけど、まあ私に譲っていただいても構わないですよ?」

「そ、そんなこと!」

 マリーは大きな声で吠えてしまった。その様子に三人は驚く。

(マリー…やっぱり俺のことを嫌いなんだろうか。)

 ユエに言われたことがまだ心に引っかかっていた。三人の踊りたい踊りをさせるのは、マリーのためでもあった。自分の相手をしてつまらない思いをさせていたのなら彼女が楽しめるようにしたかったのだが…。大一は彼女につとめて笑顔で話しかける。

「明日はよろしく、マリー。」

「はい、現王様。」

 おずおずといつもの彼女に似合わない弱々しい返事だった。

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