(4)
さながらタップダンスのようにイブはパネルを叩く。すると大一の意思を無視して外骨格が体を動かす。
「あっだっだっだっ…!」
華麗なステップ。一つ一つがキビキビと、そしてダイナミックで美しい。
「うーん、なかなか様になりますね。ワタクシもよろしいでしょうか?」
ルオンがウキウキしながら聞いてくる。ノーとは言えない。ただ筋肉痛のことを考慮してもう少し落ち着いた動きにしてください…。
イブからパネルを受け取り、ルオンはなぞるように動かす。
「うぐぐぐぐぐ…」
緩やかに広がる四肢。限界まで引っ張られてはゆっくりとまるで誰かを包むような手足の動き。右に左に体が揺れて、ルオンはその姿をうっとり見つめている。
「あ、じゃあ次は…」
またイブが思いついたようにパネルを手に取る。
「ま、まっ…」
「お二人共、現王様はさきほど筋肉痛だとおっしゃってたのですからもう少し加減をなさって。」
呆れた声にハッとするルオンとイブ。マリーがストップをかけてくれた。
「あ、ありがとうマリー…」
はあはあと息を整えながらお礼をする。
「そ、そりゃああんな声を出されていたら当然ですわ!」
マリーは急に明るい声に切り替えて返事をした。
「も、申し訳ありません…現王様と戯れるのに夢中になってしまい…」
「いや…」
反省する二人を見ると怒る気にはなれない。
「それにいつもは迷惑かける側だし…俺の、あいや余のほうが。」
それに今操作された感じだって、うまく使えば早くに基本的な踊りの足取りぐらいは覚えられるはずだ。彼女たちに身を任せるのも悪いことばかりじゃない。大一は一人心の中で頷いた。
「じゃあ、その…仕切り直しでまずは形だけでおさも覚えたいから。」
大一はすぐにブンブンと顔を振る。
「あ…一度仕切り直しにして、まずは皆さんから基本の型を教えていただきたく…」
「え、なぜ言い直されて?」
この言語にはきちんと敬体と常体が存在していて、フォーマルな場面とカジュアルな場面に適した言葉選びもできる。
「………現王様。」イブが申告するときの真剣な表情。
「教えて差し上げたいのはもちろん、むしろこちらから望むところなのです。」
「でも私達と接するときは現王様が話しやすい言葉遣いで構わないんですよ?」
三人から心配されて顔を覗き込まれる。イブにも二人きりのとき言われたが、本当にいいんだろうか。
「その、申し上げにくいのですが」
ルオンがもじもじと体をよじらせて大一に申告する。
「先のように無理に言い直されたりなされるとちょっと…お話の内容に集中できませんので。面白くて。」
どうか気にされず着飾らないでください、と三人からされたはじめてのお願いだった。
「……あ、改めてよろしく。」
公然とフランクな会話をしていいと言われると少し照れくさい。
「はい。現王様。」
三人は別に言葉遣いを変えるつもりはないようだった。
それで。
今日のダンスの練習相手に指名してもらおうと三人がじっと構える。自分が選んでいいんだろうか。少しためらいが残る、踊りが得意ではない自分が、教えを乞うのだから三人からまとめて指導を…。
「現王様、もしやワタクシたち三人まとめて相手をされようとお考えですか?」
欲張りですね、とルオンが笑う。
「あっいやそんなこと!」
「よかった。ではお選びください。」
まんまとルオンに乗せられて、いよいよ逃げ道がなくなった。ルオン、イブ、マリー…それぞれの顔を眺めていく。品定めをしているわけではないが、選ぶ、というのはやはり慎重さを生むのだ。大一がなにかに気づいたように口を開く。
「今日はマリーと。」
「えっ?……あっ、うれしいです!」
本人も期待してなかったのか驚かれたのが大一の目には意外に映った。でも、やっぱり彼女の前髪をしっかりとめている、コスモスの髪飾りが嬉しかった。




