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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
スターダストダンスホール 前
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(3)

 身体が軽い。取り付けられた外骨格、クノッヘンBが自分の体を引っ張ってくれているようだ。立ち上がるのも億劫だったのがこの通り。ただ筋肉痛が根本的に治ったわけではないので、痛いには痛い。

「あの、まだ痛いんだけど…」

「動けるのでしょう?」

 ユエがやっぱり冷たい。いきなりの呼び出しが、筋肉痛で動けないから助けてなのだから、不満を募らせるのもわからなくはない。それ以外にも迷惑をかけているので、もしかしたら愛想が尽き始めているのかもしれない。

「いきなり呼びつけてごめん…」

 グニャリと外付けの骨が前に折れて大一に謝罪の姿勢を取らせる。

「現王様、大切なことは簡単に頭をお下げにならないことです。『王』というのは重要な立場なのですよ。」

 それはわかってはいるが。

「自分で悪い事をしたと気づいたのに謝らないほうが失礼だと思うし…」

「もとの世界ではそうなのかもしれませんが…」

 確かにユエたち未来の地球人の都合で振り回されている上、彼女たちからはそのことについて一切謝ってもらってはいないが、それとこれとは別だと大一は思っている。

「礼儀正しく、お優しいだけでは女性に好かれはしますが愛されるまではいきません。」

 白いケープが揺れる。

「マスラオブリ。姫たちから真に愛されたいと望むのであれば、身につけてください現王様。」

 深い礼をしてユエが部屋から出ていった。真に愛される…。どういうことだろう。一人残された大一はしばらくその場に立ちすくんでいた。

「ごきげんよう、現王様」

 謁見の大広間まで来ると昨日と同じように姫たちがすでに控えていた。

「おはよう、ございます。みなさん。今日も早いですね。」

「何をおっしゃっているのですか。」

 ルオンが笑って返す。

「今日は踊りの稽古と聞き及んでおりましたが、さては月末の舞踏会に向けた踊りの相手をお選びになるのですか。」

 ニコニコと、大一が踊れないことを知っているイブが一歩前に出て訊ねてくる。大一はそのことを話してしまおうか迷っていた。

 昨日から考えていたのは踊りができないことを正直に打ち明けて三人に教えてもらおうということ。しかし今朝ユエから言われた一言が気にかかってきていた。

(これ、情けなくないかな…)

 ダンスのイロハなど全く心得ていない大一。自分が醜態を晒すということは、一緒に踊る姫たちにも恥をかかせることになるのではないか。

「現王様。」

 イブのよく通る声が大一まで届く。

「なにかお気を患わせることでも?」

 イブは笑みを絶やさない。そうだ。このまま黙っている方が彼女たちに失礼だろう。対地は観念して肩を落としながら、謝るように話しだした。

「…俺、踊れないんだよ…。その。みんなには、ダンスに関して何も伝えられてなかったと思うけど…」これは事前に姫たちに伝えられた『王』のプロフィールだ。「基本すらわからなくて。」

 頭をかいてうつむく。

 自分でも思うがよくもまあここまで恥を捨てて言える。だがそれは大一は今何も持っていないからだ。彼女たちが安心して暮らせるようにするため――今はこの可憐な姫君たちによって生かされている。

「わざわざ練習したいなんておっしゃっていただいたのですから、当然我々もそのようなことは織り込み済みですよ?」

「それに、昨夜ザハブパトラ姫から伺ってましたもの。」

「ローズマリー、あまりそういうお話をするのはやめていただけますか?」

 思いがけない暴露をされて大一は驚いていた。イブが大一の秘密を喋ったことではなく、別に踊れないことなど彼女たちが気にすることはないということだ。

「踊りが出来ないなどさしたる問題ではありません。それ以上にご一緒に過ごす時間がたくさんとれるのですから感謝したいほどですわ。」

 イブが大一へ手を甲を差し出した。それは自分の手をとって共に踊りたいという意思表示だった。

「あっ、待ってくださいザハブパトラ姫!此度の舞踏会は火星近くのアサフホール会場で行われますから、私のほうが指導役として適していると思います!」

「現王様はまだ踊りの型もわからないのですからまずは自由に動いていただくのが一番だと思いますよ。ですから、ワタクシを。」

「文脈がつながってませんわ。」

「まあ、これをわかっていただけるのは現王様だけですもの、仕方ないですね。」

 ギャイギャイと昨日までは見られなかった三人のやり取りを目の当たりにして大一は少したじろぐ。私が私がとグイグイ、とまではいかないものの、徐々にヒートアップしているのがわかる。これはどうやったら鎮まるのか――。

「誰かを選んだら不公平になるなら…ヨは、ユエに教えてもらいます。」

「!?」

 三人が同時にピタリと動きをとめた。自分でもまずい話題だとはわかっている。勝手にどうぞなんて言われたら傷ついてしまうが、この場をおさめるいい案が他に思い浮かばなかった。

「そ、それはなぜ?」

「えっと…」

 理由はあまり考えてない。大一は慌てて体をまさぐって答えを導き出す。腰から上をねじったときに筋肉がピクリと張って主張した。

「実は筋肉痛で…」シャツの胸元をはだけさせる。「今こんなふうに外骨格をつけてるんだよね。だからユエなら説明もいらないと思って。」

 露わになった細い骨のクノッヘンB。乾いたのりが皮膚を引っ張り若干グロテスクだ。大一の胸元をまじまじと見つめる三人。今更だが結構大胆なことをした。

「あ、あんまりみないで…」

「現王様がお見せになったんですよ!」

 ルオンが吹き出す。

「あのコノエ秘書はやはり雑なところがございますね…」

 体にぶちまけられた接着剤のあとを見て、マリーはユエの仕事のいい加減さをなじる。多分怒らせたからだと思う。

「でもこれは踊りの基本の練習に丁度いいかもしれませんわ。」

 イブが後方で控えていた付き人に通信デバイスを持ってこさせる。

「秘書などにはやらせませんとも。」

 ニヤリと不敵な笑みを大一に見せるイブ。その機械には操作パネルのようなものが浮かびあがっていた。脳内検索がクノッヘンBの関連商品とアプリケーションを引っ張っておすすめしてきた。流石にこのあとどうなるかは大一も察した。

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