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大一はベッドに倒れ天蓋を見つめたまま途方に暮れていた。まず量が多い。果てしない。まずブランド別に並べてもわからないし、どれが人気かも見当がつかない。加えてどうしてだか値段がどこにも書いてないときたものだ。
(『カタログ』『値段』『未記入』『理由』…)
宇宙的VIP御用達の高級宝飾カタログ。作られた時期とブランドと使われている鉱石、カット方法、製作者名が乗っているだけで説明文が一切ない。おすすめ一覧などもない。
大一は時間を確認する。あと2時間。
(今日でなくちゃだめなんだよ…)
こればかりは外せない。
窓に目をやると噴水広場に降り注ぐ太陽の光。日が高くなってきている。
どれなら喜んでもらえるのか。また失敗したら今度こそ…。大一はそう考えるが実のところほうぼうからそこまで大きな叱責を受けることはない。自由であらゆることが許される地位にいるのだ。
ふと大一の目に窓辺に放置された丸い装置が目に止まる。
「これだ!」
そのホロトークに飛びつき早速起動する。桃色の制作ロゴが表示されて女性の顔が浮かび上がる。大一は外側スキンの変更を行った。次々と出てくるルオン、イブ、マリーの笑顔。
(これとカタログデータを合わせれば…)
まず彼女たちに似合う色で絞る。ルオンの艶のある黒の群青には…白系か?イブの金髪には濃い色のほうが、いや彼女は褐色だからこれだと…。マリーはクセのない赤系でサラサラだから…意外な楽しさを見出し始める大一。ホログラムで映された彼女たちの顔の後ろ側に何かが
映る。つられて窓をみると、ニヤついていてしまらない自分に気づいてしまった。
真剣に、真剣に。
先程から一切気は抜いていないが。
三人の虚像を見つめながら照れながら、彼女たち一人ひとりに一番合うものを探していく。
(あっ時間…)
すっかり頭から抜け落ちてた。データは飛んできているのに。時計を見ると集合時間まであと三十分前。まずい!
大急ぎで選択をしていく。ルオン、イブと注文確定をしていき残りはマリー。候補はあるがまだ完全に決められていない。服を脱ぎ捨てながら、着替え用ポッドに体を放り投げ、脳内デバイスをフル回転させる。彼女のプレゼント選び。可愛らしい花をあしらったバレッタ。花飾り付きのヘアピン…。ここでようやく大一が気づく。
(マリー髪まとめてないじゃん!)
バレッタを却下しヘアピンを確定!滑り込みでお届けまで三十分!間に合うか?出かけるまでに間に合うか?!
時間はギリギリだというのに大一はなぜか高揚感に浸っていた。




