〘4〙
「ごめん、皆…」
急に放たれた大一の怒りにみんなは驚いて声も出なかった。
「ぐっ…口で勝てないからって暴力か?君、いい加減に…」
「俺は、ずっと………嘘をついてた。…一つだけの一番つらい嘘を。」
大一は側で呻く王のことを無視する。
ただ、姫たちに自分の話をする。
「俺は普通の、王と全く同じ遺伝子を持つ…過去から来た人間なんだ。」
はっ…と誰かが息をのんだ。
「この王が行方不明になったとかで、数日後に君たちと顔合わせをするというのに、行方不明では大問題になるからその代理として連れてこられた。」
大一の脳裏には初めて見たこの世界の景色が思い浮かばれる。無機質で何もない、虚無の部屋。窓から見えた信じられない進歩を遂げた世界。そして告げられる自分の死と連れてこられた理由。
「俺は、元の時代からいなくなってもいい人間だったんだって…。納得はできなかった、さっさと逃げ出したかった。俺には関係のないことだし、それは荷が重すぎる役目だから。」
大一は肩を震わした。
「でも。」大一の瞳から涙があふれる。
思い出される、初めて会った時の姫たちの顔。浮かれていてわからなかったが、今、ドライブから引っ張り出されるとわかる。あの時の、何にも期待していない表情。それを隠すほどの甘えるような声。
「みんな、一人ひとり想いを秘めた女の子たちだった。嘘とか、見栄とか、本音とか全部もってみんなはここにやってきたんだ。」
手を離せと王が大一の下でもがく。それでもどかすことができないのはそもそも王自身がモヤシっこなのもあっただろうが、一重に大一が続けてきたトレーニングのおかげであった。しっかりとつけられた筋肉。ずっと悩んでいた、彼女たちを守るための力。心の強さと体の強さが合わさって王を組み伏せることができた。
「そんな君たちを前にして俺は逃げ出すことなんて選べなかった。その代わりに本物になろうと誓ったんだ。」
『王』としてふさわしいふるまいを探してきた。求められてきた。
「ずっと…騙してて、ごめん。でも…」
「言い分はわかった!」
少し押さえる手が緩んだ瞬間、現王が大一をけり上げて話した。
「『でも』?君の勘違いに付き合っている場合じゃない。君は只の一般市民だ。みんなもわかるだろう、彼が何を言おうと無意味であると。」
側にいる姫たちを両腕で包み込み自分のものだとアピールをして見せる。
「違う!勘違いしているのはお前だ!お前なんか『王』じゃない!」
ついに大一は現王と対峙した。
「はっ、何を言っているんだ?正当な血筋、王家の証はしっかり持っている。この体に流れているのだよ。」
現王はいい加減相手にしているのが面倒らしく、丁寧な態度を崩し始めた。
「みんなをちゃんと見てたのか!!」
「ちょっと対応が悪かっただけさ。悪いが君のような童貞とは違って女の子の扱いはわかってる。今まで君が彼女たちに何をしてきたかも知っている。記憶の引継ぎもできてるんだから問題ないだろ。君は、俺の、下位互換なんだよ。」
構わない、と気にしないように現王は足元にいたルオンを引き寄せ顔を近づける。大一は顔を抑えて胸ぐらをつかんだ。
「みんな、わかるだろう。彼はこういう人間なんだ。」
「俺は俺のことを想ってくれるみんなを守りたい。それだけだ。」
「厳密には『王』を想っているだけだ。イブの言う通り君に従ってくれたのは地位という絶大な力があったからだ。もはや君の出る幕はない。この手を離したまえ。」
大一は睨みつけつかんだまま離さなかった。決して今この男を許すわけにはいかない。地位があるから惚れている?
「みんなを、馬鹿にするなよ…?」
「何を言おうともう君にできることなんて何もない。この後はのんびりこっちで正妻を決め、各星への送金が行われるだけ――。」
大一は現王を投げ捨てた。
「なっ!?」
「イブ…」
地位が欲しいだけだといったイブ。自分に対してあれほど親身に、落ち込み悩んだ時に現れては道を示してくれた一人。だからこそ彼女に言いたいことがある。
「俺は、みんなのことが好きだ。だから一緒にいたかったんだ。」
「そう…。」
イブの声は落ち着いている。
「嘘をついていたのは一つだけ。だから…俺じゃダメか?」
「…何?」
思いがけない問いかけにさすがのイブも眉を顰める。
「イブはさっき言った。『権力が手に入るならどっちでもいい』って。だったら、俺を選んでくれないか。」
突然の告白。あまりの内容に理解が追い付かない様子の5人の姫。
「容姿も、声も、記憶も、何もかもおんなじ。違うのは地位だけなんだ。だから俺は…みんなの『現王様』になりたい。」
誰もが目を見開いた。
その現王が立ち上がる。その声はどこか勝利宣言のようにも聞こえた。
「貴様!それは余に対する反逆だな!?王位簒奪を狙う大罪人だな!?」
入り口が騒がしくなる。そしてその外から女性の声が投げかけられた。
「遅くなりまして申し訳ありません。現王様。後宮周辺にいたカリストの者たちは抑えて下げさせました。」
「おお、ユエ!来たか、入室を許可する!ここに反逆者がいるぞ!」
「はっ。」
王直属の護衛、ユエ・コノエ・ヒトエが多数の自立歩行ロイヤルガードロボットを連れてやってきた。




