〘3〙
急に開かれた扉に驚き、恐る恐る中をうかがう四人の姫たち。
「おいで。」
とイブの体に手を回す現王が手招きする。隠さない余裕の表情で、まるでその場に大一がいないかのように振る舞う。
入ってきて第一声、マリーがいいようにされているイブに向かって怒鳴った。
「ザハブパトラ姫!気づいてください!あなたの側のその男は偽物!ただいやらしいだけの優男じゃないですか、なんでわからないんです?!」
イブは気にしていない。
「イブ殿ならわからないはずはないでしょう、心清く優しきお方こそ王だと。」
シーラも続いて訴えるが全く聞く耳を持たなかった。イブは静かに笑う。
「わかってないのはみんなの方よ。」
大一の心臓が高鳴った。
「…本物の現王様?すべてのからくりが解けたわ、なんで惑星巡業をしていなかったのか、なんで驚くほど女性の扱いが下手なのか、なんで優しいのか。それは…」
やめてくれ!
「イブ!」大一は叫んだ。彼女はちらりと彼のことを見返す。
「俺が王だ。」
ただ一言、そう告げる。まっすぐイブを見つめていた。イブは微笑むだけだった。
「それはその方が偽物だからさ。」
現王がせせら笑った。
その瞬間、全員の視線が自分に集まったのを大一は感じ取る。
追い打ちをかけるように、先程の大一の言葉が全く響いていなかったようにイブも話す。
「正直、どっちだっていいのよ私は。」
強く全身を殴られたような感じがした。
「言ったことなかったっけ?私の目的。」
そう語るイブの言葉に誰もが耳を離すことができなかった。
「私は地位が得られればそれで十分なの。」
「ははは!」現王がイブの頭を撫でる。
「イブはいいなぁ、それぐらいさっぱりはっきりしてるほうが楽だよねぇ。みんなもその方の側から離れてこっちきなよ、正妻レースはイブの圧勝で終わっちゃうよ?」
「やん、現王様ったら…。」
絡みつく二人を目の当たりにして四人は戸惑った。
「あ、あの…」
ルオンが、大一に声をかける。
「嘘…なんですよね…?あなたが…ワタクシの…」
震える手を伸ばし大一に触れようとした。信じたくない、自分に素敵な恋をさせてくれると信じた人が全くの無関係な人なんて。なんとか行って欲しい。
「なにか…なにか、おっしゃってくださいませ!……………お願いです……」
「ルル、その方は俺の替え玉なんだ、君だけは知ってるだろその男の本名を。」
「げ…現王様の世俗名…なのでは…」
現王は首を大きく横に振る。
「シロテラタイチ、その方は王家の血筋となんの関係もない俺と全く同じ遺伝子を持った別の人間なんだよ。」
空気が凍りつく。誰かが嘘…とつぶやいた。しばらくの間みんな呼吸をするのを忘れた。自分の周りから四人が一歩一歩と離れていくのがはっきりとわかった。
「なぜ…そんなことを。」
「ごめんよ、マリー。君たちにはどうしても会いたかったんだけど、今回は急な即位だったからね。王位の継承でもめてそれの手続きで他の星を回ってたんだ。」
大一と同じ声、大一と同じトーン。マリーが今まで見てきた自分に対して誠意を見せてくれる『王』と同じ表情をしていた。
「その者はよくやってくれた。本当に。君たちも楽しく過ごせたし、恋愛もできた。ただ少し思い入れが強くなってしまったようでね、ちょっと勘違いをさせてしまったみたいだ。」
大一はひたすらに黙っていた。喚いても、何をしても彼女たちを騙していたことには変わりない。
「俺もあまり十分活躍してくれた彼のことは攻めたくないんだ。ここはみんなで彼のことを送り出してあげよう。さっ。」
現王はベッドの縁に座り自分の横に並んで座るよう彼女たちを促す。
ルオンは呆然と力なくその場にへたりこんだ、シーラは黙って端に座る。ドゥニアはルオンの側に。
「彼女たちはみんな俺のものなんだ。ごめんな。」
最後に立っていたマリーの腕を取り強引に抱き寄せた。
「やっ!」
泣き出しそうなマリーの瞳が映る。あのマリーの。大一の心臓が煮えたぎった。
拳。
気づいた時には大一は相手の鼻を強く殴りマリーのことを奪い取っていた。




