〘5〙
ひとしきりドゥニアに肩や胸などいたるところを殴りつけられる。ただでさえ力が強いのに、怒っているのか泣いているのか、強く訴えるように拳を握って叩いてくる。
「ごめんよ、ドゥニア。」
大一は自分にまたがるドゥニアの頭を撫でた。
「ずっと…っ楽しみだったのに!なん……なんでっ……一緒に来てくれなかったんですか!」
ドゥニアは気づいていた。
往復一ヶ月の旅行の最中、そばで自分に笑いかけてくる男の違和感に。大一が目の前に戻ってきてそれがようやく確信に変わる。何度か頬に口づけもしたという。
「ひどい、あんまりですっ!」
返す言葉もない。約束は約束とはいえ、黙ってまた入れ替わるなどあまり考えてなかった。せめてみんなに一言詫てから入れ替わるとかそんな猶予があると思っていた。
だがもう自体は詫びる詫びないの話ではない。自分が大切にしてきた彼女たちの絆を簡単に奪われて、傷にされてたまるものか。対地の腹の中にはメラメラと怒りが燃えたぎっていた。
「ドゥニア殿が一番行きたがってたところも結局行かなかったんですよ。」
「本当?」
ドゥニアはひしとしがみついて、鼻をすすりながらうなずいた。
大一はドゥニアの小さくて少しがっしりとした体を抱きしめた。彼女から力が抜けて硬直していた筋肉が緩み、もとの柔らかい彼女に戻る。
「今度は、ちゃんと連れて行ってくださいね。」
ドゥニアが睨みつけている。
「もちろん。」
大一の返事を聞くと、安心したようにドゥニアが抱きついた。
最後のマリーはトレーニング室にいる。夜に運動はかえって良くないと自分で言っていたことがあったが、マリーの今の心情ではここに来たほうが落ち着くのだろうか。
「あたしに任せてください!」
ドゥニアがノックもなしにトレーニング室に乗り込んだ。これは前からそうである。中が少し騒がしくなり、そして、
「現王様!?」
マリーがドゥニアと飛び出してきた。そばに笑顔で控える他の姫たちを見てマリーも察した。だが彼女は他の姫と違い腕を組んで鼻高々にこういった。
「ほらね!」
なんとも堂々とした、勝ち誇った顔がマリーの嬉しさを物語っている。
「私は最初から気づいていましたよ。いま玉座に座っているのは偽物だと。」
「マリー殿が最初に言い始めましたからね。」
「そう。みんな気づかないから警告するために何度かメッセージを送ったのに無視するんだもの。」
マリーはやれやれと首を振る。誇らしげなマリーをルオンは少しウズウズしたようだ。
「いえ、マリー様。」
「ん?」
「みんな気づいていましたが、わざわざ表立って言うと目をつけられたとき大変ですから。」
「ちょ、ちょっと!」
怒るマリーを笑って見つめるルオン。このやり取りが今の大一が望んで手に入れた現実である。
「しかし、ザハブパトラ姫…。」
この場に唯一いないイブのことに思いを馳せる。
「あの方ならまっさきに気づくと思ってましたが、とうとう気づかないまま偽物との…」
重い空気が姫たちを包んだ。
「いや…」
大一は拳を握る。
「そんなことは俺がさせない。俺は戻ってきたんだ。みんなでイブを取り返そう、協力してくれるか?」
誰一人首を横に振るものはいない。
大一が戻ってきた。それだけで彼女たちにも勇気が湧いた。




