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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
ソフィア
182/190

〘3〙

 加圧スーツに着替えたルオンがもう一度太一に抱きつく。先程の圧力の関係でブヨブヨと膨らんだ彼女とは別の、いつものスラリとしたそれでいて少し柔らかな姿である。

「……ルル、それで…。」

「よかった…タイチ様。本物の、ワタクシたちの現王様。」

「あっ…ルル…」

 本物、と言われてずしりと重い感覚が腹の底に伝わった。真実を告げてしまいたいが、ルオンは泣きながら笑顔を作り、もう離れたくないと言わんばかりにくっついた。

「お恥ずかしいところを…加圧スーツを着ていないと、地球の方から見れば醜く映ったでしょう…。」

 そんなことはない。大一は首を振った。

「ごめん。」

 大一は初めて見るルオンの泣き顔に胸が詰まりそうだった。だからこそこんな風にしたあの男は許せない。

「ワタクシ、偽物だと見抜いていました…。」

 汗が垂れる。

「一月前ドゥニア様のデートのとき…あんなに楽しみだったのに…現王様はワタクシ達のことばかりで。」

 『王』であれば当然だろう。ルオンは何に気づいたのか。

「…だってタイチ様は、ワタクシ達とのデートを楽しみたい方でしょう?」

 大一は頷く。でも彼女たちのことを気にかけるのは忘れていないつもりだ。

「ワタクシ達と愛を語らうのならば何処でもできますから。」

 そうか。

 大一はいつもイベントの度に、彼女たちが楽しめているかどうかを気にしていた。それがなかったからルオンは少し引っかかっていたという。

「何度か夜伽のお誘いを受けましたが…」

 ルオンは少し寂しそうな目をする。ここに来て初めて誘われたのに断るなど思いもよらなかっただろう。

「なんだか、嫌な感じがして…お断り続けていました。よかった…本当に…。」

 ルオンは目をつぶり大一に全身を預けた。

 大一は彼女に腕を回し、二度と離さないほどに強く抱きしめた。

「ん…。」

 ルオンがキスをしてくる。

「魔女の口づけ…ではないですがいいですよね。」

「ルルの願いだからね。」

「…よかった。」

 もう一度口づけを交わす。

「やっぱり、あなたが、ワタクシの大切な方…」

 まだまだ一緒にいたいが、大一はイブのもとへ急がなくてはならない。

「ルルはここに残ってて。イブが…」

「わかっております。」とルオン。

「ただその…皆様にも一度顔を見せて安心させてあげてください。」

 確かにみんなのことも心配だ。

「王の帰還を知らせるのです。そうすれば、宮殿中のみんながあなたの味方に付きます。ワタクシはもちろんあなたと一緒に行きます。」

「えっ、でも。」

 彼女たちを助けるために来たのに一緒に危険なところに赴かせるのはできない。

 たじろぐ大一にルオンが人差し指で相手の唇を押さえた。

「もう、ワタクシをおいてどこかに行かないでください。」

 大一は頭を下げた。

「それにワタクシがそばにいたほうが皆様信じてくれますよ。急ぐのでしょう?」

「ルル…ありがとう。」

 大一は彼女の手を引いて隣の棟へと走り出した。

 ルオンが味方についてくれたことで勢いがついたのか、続くシーラの部屋には堂々とした態度で臨んだ。

 シーラの部屋はシーラの部屋らしく、まず最初の応対を従者たちが行う。

「これは、現王様。いかがなされましたか。シーラ姫様はいまお休みになられたところで…」

 一度は反省したが相変わらずの様子だ。

 それもそうだろう、大一が眠っていた一ヶ月の間にまるっきり王の態度が変わってしまったのだから。

「具体的には…」ルオンが教えてくれた。

「階段を降りるときは手を引いてくれ、食事中グラスが空いたらすぐに声をかけ、一緒に行動するときは必ず横に並んで歩いてくださいました。」

 彼女から出た悪評はゼロであった。むしろ、自分ができなかった気遣い心配り、聞いただけで敗北感を味わうような紳士的なふるまいの数々である。

「そ、それだとみんな嫌な思いとかは…してないの?」

「してないですがワタクシは嫌でした。腹の底が見えるから。」

 そう言ってルオンは大一に微笑む。

「ワタクシは打算なく愛おしく想ってくれるあなただから、好きなのですよ。」

 まあいささかオクテに過ぎますが。とクスクスと笑っていた。

 シーラの部屋に向かってルオンが叫ぶ。

「主天たる王の帰還ですよ、敬意が足りないのでは?」

 木星正教の教義を出されては逆らえないのが彼らである。苦々しげな思いを大一は察してこう告げた。

「シーラは大丈夫ですか!俺はそれだけが心配で…!」

 大丈夫とはどういう意味か、従者たちは首をひねる。

「悲しんでませんか!苦しんでいませんか!俺は…みんなが心を痛めていると聞いて…!」

 そういった瞬間、シーラの扉が開かれる。

 従者に守られながら、寝ているはずのシーラがそこに立っていた。

「ほ、本当に…本当に現王様なのですか?」

「うん…一ヶ月前にここにいた。君とステージにあがった…俺だよ。」

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