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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
ソフィア
181/190

〘2〙

「他に使えそうなものは…。」

 大一がよせた道具の数々。その中にはルオンの水砲もあった。

「これ…いけるか?」

 わからない、だが動くしかない。そうこうしているうちにどんどん外が暗くなっていく。今できそうなことはこれしかないのだ。大一はガラスの散った窓枠に足をかける。

 ブーツの起動を確認しぐっと身を乗り出した。

(今行く!)

 大一は地上をめがけて頭を振り下ろした。その瞬間落下防止のためブーツが勝手に頭より先に下に降りていく。その反動を利用して空中を蹴り、また頭を下げる。ガタガタと頭を揺さぶられ、大きな風を全身に受け、大一はぐんぐんと地上への空気階段を駆け下りていった。

 着せられていた一枚布の寝間着がはためき、風圧が大一を押し返そうとする。大一はそのまま宮殿には落ちずに外側の堀に突っこんだ。

 バシャンと激しい水柱が立つ。監視塔は無視をしている。

 泡立つ水の中で大一は撃鉄を引いて水砲にめいっぱい水を装填した。十分に溜まったとき、大一は靴を履いたまま水砲を水中で斜めに立てての銃口に足を乗っけた。息が続く限り、懸命に探るを探る。

 ガチン。

 水の中で鈍い激突音がした。

 大一は水柱に身を包まれ天へと再び打ち出される。斜めの水柱は宮殿の塀をめがけて放たれた。それの中心を泳ぐように大一は監視をかいくぐる。

 上空から降ってくるもののうちで無視されるもの。それは雨であった。いちいち反応されては叶わない。常識的な水は監査対象外。中を改めることもしないのである。

「うぇっげほ…げほ…」

 大一は鼻に逆流した水を噴き出しながら宮殿の塀のそばで這いつくばっていた。どうにか侵入成功である。

 だが当然音を聞きつけてやってくるものがいる。門兵のロボットたちだ。大一は隠れようとするものの相手のほうが早かった。そしてどうせ隠れても無駄だと思った大一は、やってきた二体のロボたちがどういうものだったのかを思い出す。

「こんばんは。」

 大一から声をかける。

〈声紋認証完了しました。ボイス変更なし、スーツの可能性、皆無。DNAの提出を求めます。〉

 ロボットたちはピタリと立ち止まり手を差し伸べてきた。対地は物おじせず、唾を吹きかけた。髪は自前じゃないのだ、行儀が悪いが仕方がない。

〈生体認証完了しました。〉

「じゃあ俺はこれで。」

 とその場から離れようとするが、一回警告音がする。

〈アクセス権限のチェックを。〉

「はっ?」

 予想外だった。大一はその性根以外寸分違わず現王なのだが、そのアクセス権限というものについては何も聞かされていない。

(逃げるか…?でも逃げてもどうにもならない…。)

 門兵には捕縛するための電撃銃が備え付けられている。

 大一は咳払いをする。

「すまない、アクセス権限のチェックをできるようなものが何も…」

 誤魔化せるはずがない。ロボットたちが再び銃を構える。ここを抜けなければ…。アクセス権限とはなんだ、どこかで聞いたような気がする。記憶をたどればわかるだろうか。それはいつのことだったか…。

(ん、記憶?)

 大一は一つかけてみることにした。なんだかわからない情報のやり取りをするとき。あの人がやっていたことを思い出す。

 まっすぐロボットに向かって歩く。そして、彼らに自分のこめかみを触れさせた。

「………。」

〈チェックが完了しました。保証者はユエ・コノエ・ヒトエ。現王様、どうぞご自由にお過ごしください。〉

 ロボットたちは持ち場へと戻っていく。

 現王様。懐かしい響きである。そう呼ばれることで、自分を自分足らしめていた。

(だけど俺は…)

 今はそれよりも彼女たちの安否である。大一は居住区へと向かっていった。

 一ヶ月留守にしている間に様変わりをしたことといえば、兵隊の数が多い。『王』の捜索に駆り出されていた者たちが戻ってきているのだろう。その兵隊たちの殆どがアンドロイドである。だからこそ、堂々と真ん中を歩くことでやり過ごせた。

 情報は即座に共有されるらしく、何者も疑ってこない。通り過ぎる侍女や従業員たちが少し驚いた目で大一を追った後に慌てて頭を下げる。

 全身ずぶ濡れでやってきたのだ無理もない。

 しかし、前ならこのような姿で歩こうものなら、

「まあ、いかがされました現王様。」と一人や二人気にかけて声をかけてきたものだが、今はそんな反応もなかった。大一は怪しまれないよう過ぎ去る一人ひとりに声をかけて奥へ奥へと進んでいく。

 遠くで響く、今も変わらない爽やかな音が耳に届いた。噴水の近くまでこれた大一がまっさきに向かったのは。

 扉が見えるといても立ってもいられなくなって強くノックをした。中からは返事がない。

「イブ…」

 室内は空のようであった。

 どこに行った。まさか他のみんなも…?

 大一は焦る心を抑えて次の棟へと駆けていく。

 ダンダンとインターホンがあるにもかかわらずこちらの扉もノックする。

「ルル…!ルル…!」

 大一はかすかに叫んだ。

「まあ、現王様。ごきげんよう。」

 モニターに明かりがつく。大一はそれに飛びついた。

「いかがされましたか?」

 画面の中のルオンはいつも通りに笑っていた。その顔を見ただけで安心できたにもかかわらず辛い気持ちがこみ上げてくる。

 今にも泣き出しそうなほどのブサイクな顔を晒す現王様にルオンは笑わずに尋ねる。

「今夜のお相手ですか?申し訳ございません。今日ももう呼ばれないだろうと変圧をしてしまったので。」

 ルオンは頭を下げてモニターを切ろうとした。

「あっ!待って!」

 大一がすがるように声を上げる。

「…?な、なにか?」

 尋常じゃない王の様子に画面の中のルオンが少しうろたえた。

「えっ…と…あの……大丈、夫?」

「…え、何がでしょう?」

「いや、元気かな、って…」

 何を聞いているんだろう。いざとなるとなんの言葉も浮かんでこない。ただただルオンが無事でいてくれれば…その思いしか今は頭になかった。

「元気…ですが…。」

「そ、そっか……。」

 ルオンが心配そうに見つめてくる。

「ルル…その。」

「はい。」

「今度のデート…どこに行こうか。」

「あなたとならばどこへでも。」

 当然のように答えたルオン。

(ルルに必要なのは…『王』なのか…。)

 もしかしたら。という思いがあった。顔を見た瞬間飛び出して、入れ替わりに気づいてくれるのではないか。だがそんな素振りは全く見られなかった。

「それじゃあ…あの…」

 大一は二、三歩後ずさりをしてモニターの彼女から目をそらした。だがそれを、ルオンは止めた。

「待って…!現王、様…。」

 声には戸惑いが交じる。

「今夜は、イブ様をお誘いになったのでは…。」

「いや、それは…。」

「なぜワタクシのもとへ?」

「みんなが、無事か、心配で…。」

「ワタクシの願い…覚えていますか。」

 大一はまっすぐルオンを見つめる。

「俺は君に素敵な恋をさせてあげたかった…でも…」

「タイチ様!!」

 バン、と勢い良く扉が開かれた。

 出てきた女性に強く強く抱きしめられる。

「ルル…!」

 大一はその圧力の変化に耐えられずドロドロとした彼女の体を抱き返した。

「どこへ!どこへ行っていたのですか!?ワタクシは…っ……あなたがっ……ぅ…ぅうう…!」

 溶けたような体を降るわせ遅れて緊急用の加圧スーツを着て出てきた従者にもかまうことなくルオンは大一の胸で泣きじゃくった。

 大一は彼女の苦しみのすべてをその身にしっかりと受け止めていた。

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