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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
宙(そら)の花嫁
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(3)


 マリーは大一にしがみついたままうつむいて動かない。一番離れたところにいるイブは欠伸をして長いサイドテールを揺らしながら遠くを見ている。左隣のルオンはこちらを見つめたまま一言もしゃべらない。部屋の隅にユエが直立不動で控えている。

(どうしてこんなことに…。)

 姫君たちを何とか和ませようと考えを巡らせるが、何を聞いても自分の無知をさらしてしまいボロが出るきっかけになりそうでそれもうまくいかない。今大一は。早急にお付きの人たちのチェックが終わることばかり考えていた。検索機能すら動かない始末。手持無沙汰になり、長椅子をトントンと軽くたたく。美女を前にして指遊びで時間をつぶす高校男児など前代未聞だろう。

 ふと左手の指先に何かが触れた。大一は気のせいかと思い顔を動かさない。するすると中指の付け根から爪の先を繰り返し何かに撫でられている。たまに一本の指をギュッと強く握ってくる。

(ル、ルオン…?)

 相手の指先の冷たさが大一の手の上を這いまわる。大一はその左側に目もくれず少しだけ手を広げてみる。合図をされたかのように指の間に彼女の指が滑り込んでくる。指と指が交差して、彼女の指の滑らかな肌触りが伝わってきた。大一はもはや気づかないフリをしているだけだ。相手もそれを承知しているのか、どんどん動きが激しくなってくる。指先と指先をちょんちょんと軽く当ててきたり、手の甲に円を描くようになぞったり。そのくすぐったさにたまらず大一はルオンの方を見つめる。

「いかがされましたか、現王様。」

 ニコニコと微笑みを湛えるルオン。見透かされているのかわからないがちょっと恥ずかしくなった。

「あ、いや暇なのかなあと思いまして…。」

「ええ、もちろん。」

 ルオンが指が絡まった二人の手を持ち上げ見せつけてくる。そう言って笑うルオンを見たからか、二人がハッとして口をはさんできた。

「み、右側は私のものですからね…。」

「現王様は私のお相手はしてくださらないのかしら。」

 はふぅ、と大きなため息を大一に見せる。

「す、ごめんなさい…。」

「謝らないで、さ、こちらへ。」

 イブが大一を見据えながら腰をくねらせて長椅子と体の間に狭いスペースを空ける。シルクような衣装の衣擦れの音がその柔らかさを一層際立たせる。金銀の宝飾の下から彼女の肌がちらりと見える。そこへ入れと…?とはいえ右はがっちり固定され、左はしっかりつかまれている。完全に大一のキャパシティを超えてしまった。

 あーでもうーでもないまるで最初に目覚めたときのようなうめき声をあげる大一。

「そんなに恥ずかしがらずともいいのですよ。私たちはもう今日この日より現王様のものなんですから。」

 さらに強く誘われる。

「まず先に私がし損ねたキスからでしょう!」

 急に声を張り上げマリーが参戦してきた。右肩からグイっと引っ張られて傾く。二度目を目の当たりにして気づいたが大一はもちろん、マリーも口づけには慣れていないのだろう、固そうな『う』の口を突き出している。ユエは今度は止める様子がない。だがさすがに心の準備すら整っていない状態でこれはできない。

「そ、それはおいおい!」

 目を泳がしてキスを拒む。

「むう、ならその時は水星の姫君より先にお願いしますね。」

「え、どういう…?」

 大一はぽかんとした。イブが代わりに応える。

「『水星人とはキスするな。』水星人の口内はえも言われぬ柔らかさで、口づけをした異性をつかんで離さない魔性の口だといわれてます。」

「試してみますか?」

 ルオンの少し開いた口から甘い吐息が漏れる。唇が少し濡れて艶っぽい。

「現王様はそれぐらいでは篭絡されないでしょうが」たぶん簡単にされると思う。

「水星人はみな内側が柔らかいですからね。それ故母星以外では加圧スーツが必須になるのだとか。」

「あ、それなら知ってます。なんでも水が溜まりやすいって話で…」

「もう、現王様。」

 ピッと大一の唇にルオンの手が触れる。ひやりとしていて気持ちがいい。言ってはいけない話だったのだと悟り、大一は申し訳なさそうに頭を下げる。

「しかしずいぶんおキレイに作られましたね、ルオンのマスクは。」

(マスク…?)

 イブに言われてルオンの顔を眺めるが。マスクなどどこにもつけていない。

「それは現王様とこれからずっと過ごすのですから、いいものをお願いしましたよ。でも。」

 ルオンは笑顔を崩さずイブを見つめ返す。

「ほとんど同じに作っていますから。」

 どういうことだろう。水星人のマスク問題。水星の人類はその特性上、母星から出るとき外圧の変化に対応できず体が膨らんで垂れてきてしまう。常に同じような体形でいるために自分の全身を覆う、厚さ平均1.4mmの加圧スーツの着用が一般的である。また顔部分を実際より美しく作ることはもはや当たり前となっている。しかし近年では外側モデルになった人物と中の人物が異なるなりすましが横行。有名人の加圧スーツは裏で高値で取引されているらしい。

 ルオンが笑顔を大一に向ける。整った眉毛、長いまつ毛にクリっとした瞳。頬の赤さ小さな鼻、ぷっくりとした唇。

「そんなに見つめないでください。」ルオンが照れくさそうに頬に手を当てる。

「常に美しくあろうするのは間違ってないとワタクシは思いますわ。それに現王様にお会いするためですもの。」

 うっとりとした瞳に思わず大一はとらわれてしまう。

「その考えは私も間違ってないと思いますが…」イブが立ち上がり、大一の顎に触れる。

「それ以上に自然にケアすることが大事だと思いますの。」

 イブは大一に頬を寄せぴったりとくっつけてルオンに見せつける。みずみずしい褐色の肌が自分の肌とこすれあう。ルオンは笑顔を崩さない。

「むぐぐ…」

 完全に大一とイブ間に埋もれたマリーがうめいた。

「ふっ二人とも!その辺で!」

 大一はそれまで絡みついていたすべてをはじくように両手を振り上げ、待ったの姿勢をとる。これ以上は気まずくなりすぎて自分も耐えられない。

「今日初めて会ったからまだお互いのことわからないじゃないですか。少しずつでいいんで、そういうこと話していきましょうよ。そしたらわかることも増えてくると思うし、ね!」

 くすくすとルオンがほほ笑む。

「はい、わかりました、現王様。」

「ごめんなさい、現王様。」

 イブもそっと離れて謝ってきた。とりあえずこの場は何とか落ち着かせることができたのだ。しかし最後までつかんで離さなかったのはマリー。

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