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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
トラウム
175/190

〘2〙

 大一は誰かに右腕を突かれた。横から自分を呼ぶような声と温かい陽の光を感じた。

「シロテラ。シロテラッテバ!」

 不思議な言語が聞こえる。

 大一は意識をして呼吸をした。なるほど自分は今机に突っ伏している。

「起きなよ、そろそろ当たるよ?」

 ツンツンと何かで突かれ続けていて、どこかで聞いたことのある女の子の声がしている。

「なにに…?」

 大一もその不思議な言語を話せた。

「シロテラ!おい!」

 今度は男性の声。バンと大きな音で机を叩かれ驚かされる。

「お前、居眠りとはいい度胸じゃないか。」

 バンバンと騒々しく大一の机が叩かれる。大一はまだ何が起こったかわからないようで、目をこすりつつもぼんやりと周りを眺めた。

 複数の男女がまっすぐボードを眺めるように座っている。ただ、この男と大一のやり取りが気になるのかこちらへ目配せをしてきて、時々隣のものと顔を見合わせて笑っている。

「あっ!授業…?」

 大一は飛び跳ねた。その瞬間どっと教室に笑いが起こる。目の前で額に青筋を立てていた男性教師からお叱りをきっちりと受けた。

「ふふふ…。」

 隣の席の少女は口元に手を当てて笑っている。2Cの教室である。目の前にある黒板も、木目のタイルも間違いなく大一のクラスルームだった。

「せっかく起こそうとしてたのに全然起きないんだもん。」

 授業余後すぐさま隣の彼女に笑われて大一は頭をかいた。

「そんなこと言われても。」

「ぐっすりだったもんね。私も驚いたよ。」

 なんかいい夢見たての?と彼女が微笑みかけてくる。

「どうして?」

「すごくにやにやしてたから。」

 よだれまで垂らして恥ずかしい。大一は一度拭った口元をもう一度ハンカチで拭いた。

「いい夢…」

 あれ、何見てたんだっけ。思い出せない。

「まあそういうことってあるよね。楽しさだけ残って後はなんにも覚えてないの。」

 彼女はさも同情したように腕を組んでうなずいていた。夢を見ていた気がする。

「もう一度寝ればわかるかも…。」

「んなわけあるかい!」

 ペチリと頭を叩かれた。もうすぐクラスルームの時間だ。終わればすぐに放課後。大一は部活も委員会も特にやっていないのですんなりと帰ることができる。

 いつもと別段代わり映えのない景色。窓の外に小さく風が吹いていた。

「さ、帰ろ。」

 隣の彼女が身支度をしてカバンを背負い大一の横に立った。大一は、じゃあまた明日と手を振って笑う。彼女はまた、ペチペチと頭を叩いてきた。

「ちょっとちょっと、それなんのギャグ?一緒に帰ろうよ。」

 彼女は大一の腕をとって引っ張った。大一はバランスを崩して椅子から転げ落ちる。

「もー。どうしたの?」

 今日はなんだか変だ。頭がぼうっとしたまま晴れないし、歩く時の歩幅すらうまく測れない。フラフラとする大一を彼女が支えて並んで歩く。

「今日も見せつけてくれるねえ。」

「くっ、元同士よ…。なぜお前だけ…。」

 友人たちの恨み言を背に大一は彼女と一緒に教室をあとにした。

「んでさー今日の体育ホントだるくなかった?こんなあっつい中でプール授業じゃないとかまじありえない。」

 明るい声で彼女は不平不満を大一に投げかける。

「あ、代寺、それで疲れて寝ちゃってたとか?」

「そうかも。」

「だよねー。」

 二人で並んで校門を出て駅前のアーケードの方へ歩いていく。

「あっ。」

 大一はアーケード街の入り口で立ち止まり、きょろきょろと見渡した。急に大一が声を上げたので、彼女は対地の様子を訝しげに見つめる。

 大一はそれに構わずふらふらと近くの揚げたこ焼き屋に歩いていった。

「ちょ、ちょ代寺買い食い?珍しいじゃん、校則破ろうとするなんて。」

「え、いや…今あれが輝いて見えて。」

 大一は油でつややかな丸いたこ焼きを指さした。

「どんないいわけだよっ!」

 ピシャリと大一の頭をはたく。

 その後も二人して他愛もない会話を続け、電車に乗った。大一が彼女の真後ろに立つと、彼女は嬉しそうに顔を見上げてくる。

「へえ、ちょっとは彼氏らしいことできるじゃん。」

 彼女は体を大一に預けた。

 彼女がイヤホンを取り出して左側を大一に渡す。大一は何も言わずにそれを右耳にはめて彼女と共有した。

 彼女がカリカリとスマホをいじって流行りの曲を流してくる。

「…ワイヤレスにしたら、ってお兄ちゃんが言うんだけどさあ、あいつホントわかってないよね。こういうのができないんだもん。」

 コードでつながった二人が電車に揺られる。

「これ、知ってる?」

 彼女はもう一度違う曲を流した。その途端大一の体がビクリと反応する。

「ちょっと、急に擦り寄らないでよっ!恥ずかしいって!」

 赤くなった彼女が大一の太ももを叩いた。だが大一は取り合わない。

「……この曲…。」

「…あ、知ってる?」

 これは誰かに捧げたラブソングだ。前もこうやって聞かせてもらったのか。どこで聴いたのか思い出せない。思い出そうと悩んでいるうちに彼女がまた曲を変えてしまった。しかたない。

「じゃあまた明日ね。」

 分かれ道で彼女が手を振るので大一も手を振って返した。彼女の背が小さく見えなくなったのを見届けて、大一は我が家へと帰っていった。

 夢。俺の見た夢は何だったんだろう。

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