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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
トラウム
174/190

〘1〙

 今度のデートはドゥニアの番である。そこで彼女は大一にこう告げた。

「あたしはみんなで近くの星に旅行に行きたいです!」

 みんなで?大一や他の姫たちもそれでいいのかとドゥニアに確認してしまう。せっかく二人きりになれる機会をそのように使ってしまうので本当にいいのか。

 だがドゥニアにもちゃんと考えはあった。

「現王様があたしたち全員好きだ、っていう欲張りさんだから。」

 『王』ならば別に不思議なことではないが、大一ならば頷ける。

「それにタイタンでは一夫多妻は普通だし、あたし楽しいことはみんなと一緒に楽しみたいの。」

 ドゥニアが前々から目をつけていたリゾート星で今度フェスティバルが開催されるらしい。彼女は大一たちの前にパンフレットウィンドウを広げた。

 昨年の様子なのか今年のイメージ映像なのか、とにかくきらびやかに青く、眩しく輝いている。

「みんなで行きましょうよ!」

 心躍らせるドゥニアを否定するものは誰もいなかった。

 大一はその夜、出発の準備のため運送車の手配、宿泊地の決定、宿のリストアップを一人で自室で行っていた。宿だけはみんなで決めたい。

 長いことみんなと一緒にいる。ようやく自分の想いに気づきそれを告げられた。みんなを幸せにしようと言う、具体性のない心だけが先行していた目標は、彼女たちの笑顔を以てようやく見えてきた。

(向こう行ったら何しようかな。)

 これから先が楽しみで仕方がない。自分が好きになった、自分を好きでいてくれる、そんな女の子達。大一はユエたちに作ってもらったペンを回しながらだらしなくニヤついていた。

 そこてその本人がやってくる。

「あっユエ。」

 ユエは一礼した。

「どうだろう、これ。ドゥニアも喜ぶといいんだけど。」

 大一は自分の集めた資料を、アドバイスが欲しくてユエに端末を通してみせる。ユエは一つ一つ丁寧に目を通してくれた。

「私から申し上げることは、何も。」

 と淡々と話す。今までとは違うそのあっさりとした対応に物足りなさを感じてしまう。

「い、いや…ほらいつもならここがだめだとか、そんなこと考えているから失敗するんだとか、言ってくれるじゃん。」

 ユエは黙っている。

「もしかして可もなく不可もなく、であんまり面白くないとか…?いや、それならこれはどうだ。俺としては中々できないことだし面白そうだと思ったんだけど。」

 いわゆるラフティングのような六人がけボートで雲海を滑る。リゾート星の中心地には大きな天を貫くほどの急勾配の山がそびえていて、天気によっては山の中腹あたりが雲に包まれる。山を下りながらその雲の中を突っ切るというアクティビティである。

「……いいと思います。現王様。」

 ユエは少しだけ答えた。

「………なんかあった?」

 大一はいつもと少し様子の違うユエに向き直った。だが常に無表情の彼女がどう違うかまでははっきりと察することができない。

「………」

 無言のままユエが大一を見つめ返す。赤い瞳が暗く沈んでいるように見えた。

「俺はさ。」大一が体を伸ばして、オートクローゼットの前まで歩く。

「正直、自分たちの都合を押し付けてくるしかしてこないユエたちにはムカついてたよ。」

 クローゼットに入るといつもの通りさっと寝巻きへと着替えがすまされる。

「ルルとかみんなの手前、直接当たることなんてめったにできなかったし、彼女たちの悩みや苦しみと一緒に立ち向かうのが先決だと思って無視してきたさ。だけど。」

 大一はもう一度ユエを見た。

「ここまで俺が悩んだり逃げ出そうとしてきた度に助けてくれたのはユエなんだよ。だからさ、なにか困ってることがあるなら俺は力になるよ。」

 真剣な眼差しの大一を一瞥して、ユエは少し吹き出してしまった。

「……ふふっ…待ってください。私がいつ困っていると?もう決まっているのです。だから大一様、全くもって気にされる必要はございません。」

 なにか勘違いしてしまったようだ。大一は頭を書く。

「お気持ちは頂戴しましょう。ふふ、しかし……もしかしたら私の望みも叶えてくれるかもしれませんね。」

「ユエの望み?」

 初耳である。大一は少し身を乗り出そうとしたが、ユエがベッドの方まで押し返してきた。

「お気になさらず。あなたはとても素敵な方です。」

 そう言われると悪い気はしない。ただ初めてユエから褒められたということがより一層照れくさく感じてしまう。

 鼻頭を人差し指でかいているとユエが尋ねてくる。

「……現王様、そういえばアクセス権限についてはご存知ですか?」

「ん…?いや?なにそれ。」

「知らぬなら教えて差し上げましょう。こちらへ。」

 ユエが妖しく手招きをした。彼女を見ると口元でなにか薄い板のようなものを噛んでいる。

「口にてお取りください。」

 不思議であった。あのユエが、鉄面日のユエが今まで会ったことのないようなえも言われぬ表情でうっとり大一のことを受け入れようと両手を広げたのだ。

 バクンと一度心臓に衝撃が走ったが、すぐさま大一は眉をひそめる。

「……どういうつもり?」

 その語気には怒りすら感じられた。

「…俺は間違いなく彼女たち夫で、俺は妻のことが好きなんだ。そういうのは感心しない。それに…そんなのユエらしくもない。」

 はっきりとした線引きである。立場や信条から許されないのではない。心からユエの突然の態度を拒絶している。

「失礼いたしました。」

 ユエはすぐにいつものように大人しくなり、丁寧に頭を下げた。

 しおらしい態度をされてしまうとすぐに怒りが収まってしまう。

「そ、その俺は、ユエのことを今はもう嫌いとかじゃなくてさ。ユエの中でそういう気持ちが起こっていたのなら、嬉しいんだけど…応えるつもりは絶対にないから。はっきり言っておいたほうがいいと思って…。」

「いえ、構いません。ちょっと確かめたまでです。」

「えっ?」

 パンパンとユエ自らの手で今夜のベッドメイキングをする。

「あなたがあそこですぐさま飛びつくような阿呆になられてしまったのなら悩むところでしたが、きちんと、立派になられたようで私は安心しました。」

「おっ?!俺を試してたのかよ…!びっくりした…」

 大一は胸をなでおろす。

「会う人会う人が恋に落ちるなんてありえないって身をもって知っておりますものね。」

「好かれたいなら自分から相手のことを好きになれ、でしょ。…なったよ。」

「ふふ…。」

 ユエは笑いながらベッドの準備を終えた。

 大一がベッドに就くとユエが部屋の照明を落とし静かに大一に向かって一礼をする。

「お疲れ様でした。良い夢を。」

「ん、ああ…。」

 今日はなんだか疲れた。いろいろ悩んだ日はよく寝られる。ベッドが自分のことを緩やかに包んでくれる。明日はまずドゥニアに会いに行こうか。いや、マリーと日課のトレーニングを?そういえばシーラが一度朝のお祈りに誘ってくれていた。イブは朝が弱いから俺が起こしに行ったほうがいいだろうか。ルルと一緒に散歩に出るのも…。

 大一はその日ゆっくりと眠りに落ちていった。

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