〔4〕
イブがスカートの裾をしぼって海水を落としている。
「しまった…」
彼女は大一の方を見て苦笑いをした。
「いまシーズンじゃないから、ドライルームとかシャワールームとか用意されてないんだった…。」
「ええ?」
となるとつまり、着替えのあるイブはともかく、何も持ってきていない大一はベタベタに濡れたまま帰ることに…。夏場は服を着たまま体を洗えるシャワールームとそれを乾かすためのドライルームが設置される。全身丸洗いができるのだ。
「どうしよっか…?」
「じゃあとりあえず俺は乾くまでここにいるよ。」
大一は波が寄ってこないそこら辺の浜に腰掛けた。
「……なら私もそうしよっかな。」
イブがその隣に座る。風が気持ちよくそよいでいる。自分がここに来る前の浜辺とは大違いだった。
ずいぶん遠くまで来たなぁ…。
大一は遠い目をして淡い真昼の水平線を眺めていた。
「ん、ここまでビークルでそんなにかかってないでしょ?」
「あれ…聞こえてたの?」
「ええ、聞こえてました。……今のはどういう意味?」
大一はドキリとする。それほど深い意味は導き出された背景が危険すぎた。
「…えっと…」
イブは首を傾げて大一のことを見てくる。「昔の俺からは想像できないくらい、成長してるなってこと。」
「フフ…そう思う?」
イブは大一の返答に鼻を鳴らして笑った。
「あれ…あんまりそう思われて…ない…?」
「全然まだまだですよ。現王様。ようやく張り合い甲斐が出てきたってところかな。」
モテる男への道は遠い。別にモテなくてもいいのだが、このままではいけないという不安がどこかに残っている。
「…なに?私達がとられないか心配?」
イブは意地悪な笑い方をした。図星を刺されて胸がキャッと悲鳴を上げる。
「悪いとは思うけど、現王様以外にもいい人っていっぱいいるしねえ…。」
姫としてあるまじきお言葉である。
「優しいだけの人は私、好きにならないからね。」
「…ゥグッ!」
済ました顔をしてとんでもないことを言われる。みんなに好きになってもらえるように努力してきたのだが、イブには全く響いていなかったのだろうか。
「……じゃ、じゃあ、俺のこと…見限って…その………ほ、他の男と…?」
イブは何も答えない。ただ挑発するやような瞳で大一のことを見つめているだけだ。
「…そうなったらイヤ?」
「当たり前だろ!!」
大一は勢いよくイブの体を掴んだ。表情一つ崩さずイブは大一に不敵な笑みを投げかけている。
「………なんで?」
「なんで、って…!それは!俺はみんなが好きだから!」
「はい。」
ポンと音がどこからか鳴った。
「みんな聞いてた?」
イブは隠していた端末を取り出して、ケラケラと話しかけている。
「ほら、現王様。みんな嬉しいって言ってるよ。」
イブが自分の端末を大一に渡した。四人の姫の言葉が画面いっぱいに埋め尽くされている。
「私達も結構不安だったんだよねえ。そういうこと全然言ってくれないから。」
大一は思いがけず、全員に告白をした。




