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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
クイーンテイクアウト
171/190

〔2〕

 何台か前後に護衛のためのビークルついているが、基本的にイブの運転するビークルには必要以上には近づかないよう目立たずに走っている。

 今二人を邪魔立てするものはなく、モトビークルはひたすらに風を切っていた。

「海、海だ…」

「見えたねー」

 大一のつぶやきを風とエンジンの音の中でもイブは聞き逃さない。こちらに来て初めて見た海は青く澄んだ水色に見えた。浜が白いからなのか、それとも太陽が明るいからなのか。

 イブは巧みにハンドルを切って海岸へと近づいていく。坂を下り、まだほとんどビークルの見えない駐車場を目指す。次第に波の音がまざって聞こえてきた。

 海開きはまだされていない。すなわち海水浴はまだできない。海岸は散歩に訪れたものやランニングをしているもの、大一の時代とそれほど変わらない様子であった。

「あーあ、泳げればなあ。」

 イブは運転をし続けて凝った体を伸ばしてほぐしている。

「今度来る時の下見のつもり?」

 大一の脇腹を小突く。イブは駐車場のフェンスに寄り掛かって海を眺めた。

「そんなことはないって。」

 波や静かに浜辺を濡らしていた。白い砂浜がまぶしくて大一はその景色を長いこと見続けてしまう。イブは何も言わずに一緒になって眺めた。二人の間を風が通り抜ける。イブはヘルメットを外し自慢の白金の髪をいじった。

「あ、ちょっと、跳ねてる。」

 と大一が指をさすと、イブが頭を寄せて、

「私からじゃ見えないから現王様直して。」

 と返す。女性の頭に触れたことはない大一だが、ここで引き下がるほどもう臆病ではない。くしがあるかイブにイブに訪ねた。

「手櫛でいいわ。」

 だがイブはそういって頭を向けた。シニヨンアレンジと言っていたはずだがどこがどうなっているのかわからない。大一はぐるぐるとイブの頭を舐めまわすように見た。

「ここから、こう後ろに持っていって…?」

「くふふ…適当でいいって。」

 イブはじれったそうに大一の手を取って頭を触らせた。大一も不自然じゃない方向に乱れた部分をひっぱる。

「いたっ」

「あっ、ごめん。」

 時々ずれたことをするとイブはわざとらしく声を出してくる。しかし、それ以外はなすがままだった。

「どう?可愛くできそう?」

 イブが下からのぞき込んでくる。

「あ、も、もうちょい…」

「なら両手使ってよ。」

 大一も言われるがままイブの髪をいじった。指を髪と髪の隙間に入れて後方に伸ばすように向きをそろえていく。

「指、立てないで。」

「ああ…」

 指の腹を這わせるようにイブの髪に触れていた。

「こことか。」

 イブは耳を出してくる。彼女の耳の裏に沿うように髪を流していく。

 何とか整えられただろうか。大一がほっと一息つこうとしたところに、

「現王様に…頭撫でられちゃった。」

 イブは大一に笑いかけ、端末に向かってっピースサインを出した。

「んっ?」

「ほら見て現王様。」

 急なイブの発言に戸惑っていると、イブが端末を見せるために大一の腕に引っ付いた。

 出された画面にはリアルタイムで動いているのか、先ほどのピースをしたイブの笑顔の画像と、それに対するコメントが寄せられていた。コメントの主は、四人の姫である。

「えっ、これ?」

「うん、私と現王様のいちゃいちゃ自慢。…あはは、シーラなんてもっと慎みを!とか言っちゃってておかしー。」

 確かにそのような内容のコメントが寄せられていた。

「うーんでも…」

 イブは撮った写真をじっくり眺めた。

「現王様、髪いじるの下手だねえ。」

「な!?イブがやれって…」

「ぼさぼさになっちゃったからそこで髪整えてくるね。」

 うろたえる大一のことはお構いなしに、イブが近くの化粧室に駆け込む。それに合わせてずっと遠くで待機していた護衛の者たちが周りを固めた。

 はぁ。

 大一はふてくされて海の方に向き直った。それなりに頑張ったつもりなのに、イブは自分勝手なことを…。今のやり取りが不満であった。

(だけど、それくらいできなくちゃイブぐらいの女の人は相手に出来ないのか…)

 姫たちの話。自分に出会う前に故郷に恋仲の者がいても不思議ではない。歴代の王室でもよくあった話だそうだ。イブの立ち振る舞いからいって、おそらく昔、そういう関係の相手がいたのではないか。

 大一の気持ちが重くなった。それはユエから聞かされた話だったが、イルマのこともあり常に心のどこかでそんな暗いことを考えている節があった。自分より魅力的な男が現れたら…?そういう不安が大一をここ最近必死にさせていた要因でもある。負けない男になるために体を作り、皆に気を配り、好意を持たれるように、思いつく限りのことをやってきた。

「でもイブはもしかしたら…俺と前カレを比べてるのかも…。」

 ここまでくるとすでに負け犬の思考である。

「お待たせしましたっ…てなにちょっと目を離したすきにそんな顔してるの…?」

「えっ…?」

「せっかくの海が台無しじゃん。ほら、何があったか知らないけど私のこと見て元気出して。」

 グイッと強引に顔を持ち上げられてイブの方を振り向かされる。

 髪を整えるどころか、ライダースーツを脱いで胸元を強調した開放感のある服、いや布姿になって帰ってきた。へそまで見えている。ぴっちりした下履きからパレオのようなスカートを履いて。靴も砂浜を歩きやすいサンダルに履き替えている。

「ほら、行こ。」

 イブは大一の両手をとった。

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