〔3〕
私、ローズマリー・サンドラ・ヴィクトレア。
まさか私が一番最初にデートの権利を得られるとは。決まった瞬間、大声で叫びすぎてみんなに笑われたけど、関係ないよね。
現王様とデート。あの人のことを想ってこんな気持ちになれるなんて考えてもみなかった。前にシーラ姫に言われた通り、お金目当てだった自分はもう過去。色々な出来事を経てようやく、みんなが一緒になれる。そんな感じがしてた。どこに連れて行ってくれるのかな…楽しみだ。
雲一つない快晴の日。マリーは大一を待っていた。昼頃から出発だというので、どんなところに連れていかれてもいいよう、なるべく動きやすい格好で来ている。きっと大一のことだからドレスコードが必要なこじゃれたところには連れて行かないだろう。マリーはある種の信頼を寄せていた。
「でもデートするまでどんだけ時間かかってるのやら。」
マリーは時計を見てくすくす笑う。
「ごめん、マリーお待たせ。」
大一の自分を呼ぶ声が遠くから聞こえてくる。ギリギリまで近づくまで振り向いてやらないとマリーは決めていた。少しぐらい大一を困らせたくてしょうがないのである。ルオンがごくごく普通にやってのけていることが少しうらやましかった。
「あの、マリー?」
足音が近づいて来る。声も若干不安げになっているようだ。マリーは振り返らぬままほくそ笑んだ。実際、言うほど待たされてはいない。
「マリー…。」
いよいよ首筋にかかりそうなぐらいになった。
「マッ――!」
マリーはガバッと飛びつく。すぐに抱きしめて大一のこの頃厚くなってきた胸板に頬ずりをした。
「ええっ!」
何を驚いてるの、この王様は。私は妻でしょう?
「フフン。」
マリーは笑う。
「マリーこれから移動するから、その。」
「ええ、わかりました。」
大一が恥ずかしがる顔も見れたし満足して体を離す。その時、目の端ににやにやと笑ってこちらを見ている集団と目が合った。
(げっ!?)
見送りに来ていたのか並ぶ四人。イブ、ルオン、シーラ、ドゥニア。今の一連の流れを余すところなく見られてしまっていた。ルオンなどは口元を手で隠しながらゲラゲラ笑っている。そんなにおかしいことではないのだが、もともとのマリーの性格を知っていればこそ、マリーの無茶苦茶な『駆け引き』が面白いのだった。シーラが嫉妬しているのをかすかに感じ取った。
「行きましょう?!今日はこれからどちらまで?」
ホホホと手を当てて大一のの手をぐいぐいと引っ張る。
「うん、今日は、その。街に買い物に出ようかと。」
「買い物?」
買い物デートがしたいらしい。ただ王宮からでも適当に注文すればほしいものは何でも手に入る。マーケットなどほとんど存在しておらず、郊外には様々な小売企業の倉庫が点在している。ただ、それでも大きな街には大きな市場が残っている。
「…何か欲しいものがあるんですか?」
大一は言った。
「マリーと一緒に欲しいもの探したいんだよ。」
いつからこんなセリフを言えるようになったのだろう。マリーは頬を赤らめた。
「あ、でも街行くひとに顔を見られたらまずいかも…。」
この世界の変装はほとんど意味をなさない。大昔にはやったのはホログラムを皮膚に直接投射して全く別人の顔で街を歩くというのがあった。やがて防犯上の理由から店の入り口などにはホログラム解除用の電波ゲートの設置が義務付けられたせいで、入ろうものならすぐに化けの皮がはがれてしまう。結局古典的な顔のほとんどを隠すという方法をとるしかない。
「本当は変装をさせたいんだけど…。せっかくお化粧してきてるのに顔隠させるのはかわいそうだしさ…。」
(気遣いもできるようになって…。)
大一の成長をひそかにかみしめるマリーである。
「でも今日行くところは大丈夫。王族とか、各星の高潔な人たちしか入れない特別なマーケットがあるらしいから。」
「えっ、そんな高そうなところに行くんですか?」
VIP用のマーケットは存在しているがそれなら正直なところ自宅というか自分の住まいから注文したほうが早い。それでもデートはデートだ、もしかしたら人も少なくて落ち着いて二人きりの時間を楽しめるかもしれない。マリーはうなづいて大一と一緒にビークルに乗り込んだ。




