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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
宙(そら)の花嫁
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(1)

 式典は一時休止となっている。理由は二つほど。大一が勝手に動いたことの対応、水星の姫の予定になかった演出。後は服が水しぶきで濡れたので代わりを用意する必要があった。何分急な出来事だったので、近くの空いている一室に放り込まれ、ユエに着ていた服を強引にひっぺがえされた。タオルが渡され、大一はそれにひとまず身を包んだ。

「理由をお聞かせください。」

 声色からは怒っている様子ではなさそうだが、なにぶん相手は感情が読みづらいユエなので素直に答えることしかできなかった。

「その…て、テンション上がっちゃって…」

 自分がのめりこむほどヴィジョンの映像がすごかった。あの時ばかりは自分の立場や状況を完全に忘れていた。

「あなたがた過去人は感情が高ぶると走り出す傾向があるのですか?」

「すみません…。」

 さすがに怒っている。そういいながらユエが手早く適当な服を見繕ってくれている様子を見てさらに申し訳なくなった。大一は思っていたことを全部話す。

「…ここに連れてこられて、ひどい目に遭って。自分の意志なんて完全に無視されて…そんな中で自分のことを想って会いにきてる人たちがいると思ったら」

 大一はうつむく。

「うれしかったんです。あんなすごいもの用意して。俺は偽物だけど頑張ろうかなって…」

 言いかけた所にいきなり全身を糸のようなものが包み込み繭状になる。寝袋というか…シュラフといったか。ユエをさらに怒らせてしまっただろうか。

「あなたは偽物ではなく、『王』そのものなのです。そこを間違えていては感づかれてしまいます。」

 糸と体の間に何かがまとわりつくような、もぞもぞと動く何かの肌ざわりを感じる。

「ここできちんと話せてよかったかもしれません。」ユエが落ち着き払って話す。

「確かに代わりとは言いましたが、本物が見つかるまであなたが本物の『王』です。そう思っていただいて構いません。むしろそう思っていただくことが重要なのです。」

 そしてまだ繭に縛られ身動きが取れない大一に近づきそっと耳打ちした。

「ネヤゴトを除けば彼女たちに何をなされてもかまいませんよ。」

「はっ?!」

 驚いて体を動かしたせいで繭の一部が破けてしまった。大一が彼女を見ると無表情なのに紅い瞳の奥が深くきらめく。

「そう、『王』としてお后を選らばないこと、枕を共にされないこと。この二つをお守りいただければ5人の美女があなたを無条件で愛してくれるのです。」

 最後に本物が見つかるまでですが。と付け加えられた。

「ああ、先ほどのようなことはさすがに危険が伴うのでご遠慮願いたいですが…。…ともかくごゆるりとお遊びくださいませ。」

 包んでいた糸からふっと力が抜ける。大一はいつの間にか別の衣装を着替えさせられていた。割と肌の露出が多いことに焦る。それでもあまりにコロコロと変わるユエの態度に呆けることしかできなかった。

 それから夢遊病のように廊下を渡り、手を引かれながら宮殿前の広場の席に座らせられた。先ほどの水煙のせいだろうかまだ若干湿気ていてもやがかかったように見える。中央には三台の駕籠。『王』が席に着くと3人の姫が合図されたかのようにそこから出てきた。パレードのような派手さはなく、深く頭を下げ挨拶をするだけだった。

 進行役のカサネギさんがしわを震わせて何かをしゃべっているのが響いていた。続いて大一が自分のものではないダウンロードされた姫君への歓迎の言葉を勝手にしゃべっている。そして姫たちの番だ。

「現王様、まずはご無礼をお許しください。」

 白く光をはじく肌と透き通るような羽織りがゆらゆらと揺れる。

「危険性は承知していましたが、今日、この日をもって現王様に初めてお会いできるので何か楽しませてさしあげたいと…」

 水星の姫がスカートの端を持ち噴水で出会った時と同じように礼をする。

「ワタクシはル・ルオン・スルカ・グレトヒェン。ルオンとお呼びくださいませ。これよりは、永遠にお側に…。」

 そういって静かに後ろに下がる。次に右端にいた褐色の女性が前に出る。他の二人より少し大人びた印象で背はもしかしたら大一よりも高い。派手な金製の装飾品をふんだんに身に着けているが、それよりも一際輝くのはエメラルドの瞳。金星人の目の色は基本的に緑だそうだ。サンプル画像が脳内にいくつも上がってくる。

「あまりに長く焦らされて恋焦がれてしまいました。何度機会を設けてもなかなかお会いできないのですもの。」

 しっとりとした声色が大一を耳を引き付ける。装飾がちりばめられた服はもちろんだが、彼女もルオンに負けじと薄手のロングドレス。体の線を大胆に強調するその衣装は自信の表れだと見て取れる。

「イブ・ザハブパトラ。我が星では王位につく者としてザハブパトラと呼ばれておりますが、現王様にはぜひ愛をこめてイブ、と呼んでいただきたく存じます。」

 『王』から目を離すことなくイブは列に戻る。そして最後の一人、大一がそちらに目を向けると彼女は慌ててから笑顔になった。火星の姫がずんずんと前に出てくる。他の二人とは違いしっかり着込んできている。赤髪のショートヘアでピシッと立てた襟元が意志の強さを感じさせる。大気が形成できていない火星人の特徴として、ほぼ室内で過ごしているからか皮膚は薄く血の色が肌に浮き出る。そのためほとんどピンク色の肌と言って差し支えない。だが気味の悪いものではなく、大一には彼女の笑顔が桃のように映った。

「私はローズマリー・サンドラ・ヴィクトレア。マリーと呼んでください、現王様。お会いできて光栄です!」

 名乗りながらガバッととびかかってくる。衛兵たちが慌てて駆け寄るが、大一は無事だった。ギュッと女の子に抱き着かれている。香水なのか甘い香りが鼻を抜ける。

「あはは、私ったらごめんなさい。でもいてもたってもいられなくて。」

 そういいながら今度は大一の頭を両サイドからがっしりつかんでくる。その小さな手からは想像できないほどの力が伝わってきた。もう一度衛兵が慌てる。

「んー」

 いきなりキス。会場はざわつく。大一は固まる。動いたのはこれまで微動だにしなかったユエだった。

「おやめください。公衆の前ですよ、火星の姫君。」

 すっと大一とマリーの唇の間に手を差し込む。もちろん柔らかい平の方が大一側だ。

「ま、まあ私としたことが。他の二人が言うようになかなか会えなかったんですもの。運命の方を前にしたら我を忘れてしまって…。」

「なるほど、感情がコントロールできない現王様にはお似合いかもしれませんね。」

「と、ともかくよろしくお願いくださいませね。」

 マリーが腕をほどく。周りのざわつきが少し怖くて大一はしばらく目を伏せたままだった。

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